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連載「大阪ダブル選挙」その3
「ねじれ」に苦悩する政党

吉富 有治
大阪
 今回の大阪ダブル選挙でしばしば耳にするキーワードがある。「ねじれ」である。選挙の支援体制に対する中央と大阪の思惑に大きなずれが存在し、なかなか一本化できない。これを一部の政党やマスコミなどが「ねじれ」と批判し、今回のダブル選挙が異様であるかのような印象づくりに余念がない。


 中央と大阪とで「ねじれ」が起こった発端は、自民党推薦の候補者を共産党が応援することが決まってからだった。共産党大阪府委員会は10月3日、自民党市議の柳本顕さんが無所属で立候補することを受け、独自候補の擁立を見送り、柳本さんを支援する方針を決定した。ところが、国政では安保関連法案などで与党と激しく対立する共産党なのに、大阪では自民党推薦の候補者を応援するのは矛盾ではないのかといった意見が官邸と自民党本部から出された。これには大阪の自民党も選挙戦に影響が出かねないと動揺、マスコミなどで「ねじれ」と強調される原因になったのだ。

 菅義偉官房長官は12日、BS放送の番組に出演し、ダブル選挙において「少なくとも共産党と共闘すべきでないと思っている」と不快感を露わにした。この官房長官のコメントに同調するかのように、自民党大阪府連は同じく12日、府連会長に就任した中山泰秀衆議院議員が「共産党に対しては、我々から何か要請することはあり得ない」と述べ、共産党との選挙協力など眼中にないとの見解を示した。

 官房長官と府連会長の言葉は大阪の自民党だけでなく有権者にも影響を与えたようで、「自民党と共産党が一緒になって同じ候補者を応援するのは間違いではないか」といった意見が街中で聞かれるようになった。自民党が不安がるのも無理はない。今年5月17日の住民投票では自民党と共産党が共闘したことに反発する自民党支持者が続出し、ふたを開けてみれば約4割の支持者が賛成票を入れる結果になっている。住民投票のような結果だけは招きたくない大阪の自民党も気が気でない様子で、「官房長官も府連会長も余計なことは言わんといてくれ」(自民党府議)といった声まで聞こえてくる始末。しかし、私に言わせれば共産党の支援は「ねじれ」でも矛盾でもなく、むしろ地方においては十分ありえることだと思っている。

 言うまでもなく、国政と地方議会が扱うテーマは異なっている。例えば安保関連法案を大阪市議会で取り扱うのなら共産党が自民党推薦の候補者を応援するのは、なるほど矛盾する。だが、地方議会で扱うテーマは地域住民の利益・不利益にはね返る、いわば地元固有の問題に限られている。自民党と共産党が国政で対立があるからといって地方でも同じだと考えるのは地方政治を知らない者の言い分でしかない。

 そもそも地方議会の仕事は行政が打ち出す政策や予算・決算のチェックであり、議会内では本来、与党と野党といった対立的な概念はない。もし与野党があるとすれば行政と議会との関係がそれであり、仮に自民党推薦の候補者が当選して市長になっても、共産党はあいかわらず行政のチェック機関としての役割を果たすだろう。それが国の議院内閣制とは性格の異なる二元代表制のあり方なのだ。

 大阪ダブル選挙において共産党は今回、「反大阪都構想」という一点で自民党推薦の候補者を応援することにした。他の公約について異論や反論はあっても、大阪都構想が実現することで大阪市が廃止されてしまうことは自民党と同じく反対の立場だ。ならば、まずは反都構想の候補者を応援し、他の公約については議会で論戦して決着をつける。これが共産党の基本的な考え方である。

 例えてみれば、地球に敵対的なエイリアンが侵略してきた場合を考えてみればわかりやすい。こんな地球規模の非常事態になればアメリカも中国もロシアも、それこそイランも北朝鮮もイスラム国も手を携えて共に戦うだろう。人類が駆逐されるかもしれないというときに、「アメリカと北朝鮮が共同戦線を張るのは野合だ」と文句を垂れる人間などいるわけがない。

 もちろん大阪維新の会をエイリアンだと言っているわけではない。大阪市が廃止されかねない事態を目の前にして、共通の思いを持つ政党が普段の政策や立場の違いを超えて共に自衛措置を起こすことを原理的に示した1つの事例にすぎない。

 一方、自民党から肘鉄を食わされた肝心の共産党はどう思っているのだろうか。共産党大阪市会議員団の山中智子幹事長は「自民党からどう言われようとも、私たちは大阪都構想反対という立場で柳本顕さんを勝手に応援していくだけ。誰が市長になっても議会で批判すべき点は批判していく」と断言、自民党内部の「ねじれ」など意に介さぬ様子だった。自民党より共産党の方がよほど大人のようである。


 さて、ねじれは自民党だけではない。実は公明党も別のねじれを抱えている。中央で自民党と連立を組む公明党は首相官邸の意向も無視できず、また来年の参院選もあって維新の会との表立った喧嘩は避けたいのが本音である。そこで公明党大阪本部も中央の意向を汲んで特定の候補者を応援しない自主投票に持ち込みたい考えのようなのだ。

 ところが公明党大阪府議団や市会議員団の考えは大きく違っている。「柳本さんとは住民投票で共に戦ってきた仲間。自主投票といった消極的な応援ではなく、できれば党の推薦をもらいたい」(公明党府議)と語る議員は少なくないのだ。おそらく最終的には党本部に従い自主投票になるだろう。だが、それでも共産党のように勝手に応援する府議、市議はかなり多く現れるはずである。

 鉄の団結を誇ってきた公明党だが、ここ最近は「中央と大阪は違う。党本部のしがらみを持ち込まれても困る」と訴える議員が増えてきた。こちらも自民党より大人のようである。

(2015年10月15日)



連載「大阪ダブル選挙」その2 大阪都構想を争点にすることの是非
連載「大阪ダブル選挙」その1 候補者の擁立が進まないそれぞれの事情


大阪市長選挙(Yahoo!ニュース 検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪市長選挙
大阪府知事選挙(Yahoo!ニュース 検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪府知事選挙
大阪都構想(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想

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