連載「大阪ダブル選挙」その1
候補者の擁立が進まないそれぞれの事情
吉富 有治
大阪市内のホテルで9月15日、大阪維新の会主催の政治資金パーティーが開かれた。国政政党「維新の党」で大阪組と呼ばれる衆参の国会議員や各地の地方議員、またこの日のために全国から集まった支持者など約3000人が会場を埋め尽くしていた。かつての勢いは失われたと陰口を叩かれる維新の会だが、この日の盛況ぶりを見ていると、まだまだパワーは衰えていないようである。
さて、会場に集った支持者やマスコミが注目したのは、橋下徹代表(大阪市長)の口から11月22日に投開票の大阪ダブル選挙の候補者が正式発表されることであった。噂されている松井一郎幹事長(大阪府知事)が府知事選候補として再選に挑むのか、大阪市長選の候補として名前が取り沙汰されている2人の衆議院議員のうち、どちらが選ばれるか。誰もが読み上げられるだろう名前に最大限の関心を寄せていた。だがこの日、大勢の期待をよそに橋下代表は候補者の発表をすることはなく、後日に先延ばしすることになった。
ダブル選挙まで2か月を切った9月末の時点まで維新の会が候補者を決められないでいたのは2つの理由があった。1つは自民党が誰を候補に推してくるのか、それを見極める必要があったからである。一時、自民党大阪府連が俳優の辰巳琢郎さんに府知事選の候補者として打診しているという報道がされたとき、大阪維新の会も危機感を持ったという。辰巳さん本人が「その気はない」と公言したことで擁立は幻に終わったが、それでも京大出のインテリで、しかも女性に人気のある俳優が出馬すれば維新にとっても脅威であった。
前回2011年11月27日投開票の大阪ダブル選挙で当時の松井候補は200万を超える票を獲得したが、それは橋下候補と二人三脚で出馬したからであり、いくら橋下代表の応援があっても次の府知事選では前回ほどの得票は期待できず、そこに人気俳優が対抗馬として目の前に現れては苦戦を強いられると見ていたからである。辰巳琢郎さんの擁立報道が出てから橋下代表は、「府知事選、市長選の候補者は有名人ではなく、府議、市議から出すのが本筋」と語ったのは自民党への牽制だったのだろう。有名人を出されては勝てないという焦りの裏返しだったのかもしれない。
だがそれは同時に、維新にしても世間に名の知れた有識者やタレントの擁立を諦めたということでもあり、結果として身内の議員から候補者を選ばなくてはならないことを意味した。もっとも、その維新も府知事選や市長選に擁立できるだけの人材は不足していた。大阪維新の会は橋下、松井の両名の個人商店的な色合いが強く、スキャンダルや不祥事で週刊誌に名前が出る議員はいても、市長選などで野党と互角以上に戦えるだけの知名度や実績を持つ議員は見当たらないのだ。つい最近まで2011年の統一地方選挙で当選した、いわゆる橋下チルドレン議員の名前が市長選候補として挙がっていたほどで、他会派からは「よほど人材がいないのか」と呆れられていたほどである。これも維新が候補者の名前を決められない理由の1つだったのだ。
最終的に維新の会は10月1日、府知事選候補に現職知事の松井一郎さんを、また市長選候補に前衆議員の吉村洋文さんの2人を指名したが、両名の名前は事前に予想された通り。他の意外な候補者が現れなかったのは、やはり人材難があったからだと思われる。
一方、維新にとって最大のライバルとなる自民党にしても事情は同じだった。特に府知事選の候補が10月初旬まで見当たらなかったのである。自民党大阪府議団のある幹部は「誰を候補者にするのか、その決定権を持つのは党本部であり、官邸の意向も無視できない。安保関連法案が通るまでは私たちも動けない」と語り、選候補者の選定で大阪府議団はイニシアチブを取れないことを強調していた(注・取材したのは法案可決の1週間前)。しかし、他のベテラン府議は「われわれとしても独自候補を見つけるため何人かの方々に当たりをつけているが、色よい返事をもらったとは聞いていない」と、要はこちらも人材難が本音であることを示唆していた。
ただし、これは以前にも書いたことだが、6兆円を超える借金といった大阪府の財政事情を知っている者ほど府知事などやりたがらないのは、行政や議会の関係者なら誰もが認めるところである。大阪府は財政破たん寸前なのだ。これでは人材不足より以前に“罰ゲーム”のようなものだからである。
対して、市長選の候補はようやく決定した。自民党大阪府連は9月22日、大阪市議団の柳本顕幹事長を市長選候補として擁立することを正式に決めた。柳本さんは5月17日投開票の住民投票で反都構想のシンボル的な存在となり、テレビなどで橋下市長と互角に渡り合った実績を持つ。また、大阪市議会の公明党や共産党など他会派からの信頼も厚いことも市長選の候補に擁立された理由の1つだった。
大阪市はポスト橋下を決める選挙だけに注目度は高い。さらに維新の会は、住民投票で否決された大阪都構想を再び争点にすると主張しており、もし府知事と市長に維新の候補が当選すれば大阪市の廃止が現実味を帯びてくることになるだろう。
(2015年10月6日掲載)
大阪市長選挙(Yahoo!ニュース 検索)
http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪市長選挙
大阪府知事選挙(Yahoo!ニュース 検索)
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