大阪ダブル選挙のゆくえ
〜 候補者を地元で決められぬ大阪の不幸 〜
吉富 有治
安倍晋三首相が9月4日、読売テレビの番組収録のために大阪を訪れた。だが、首相の目的は別にあるという噂が政界とマスコミに流れ、記者はその裏取りに追われることになった。その噂とは、評論家の辛坊治郎さんを来たる11月22日投開票の大阪ダブル選挙の市長候補として自民党本部が推すというものである。しかも自民党と公明党、そして大阪維新の会による3党の合意の上に辛坊さんを大阪市長選の候補者に推薦するという。このような驚くべき情報が前日から流れ、大阪の政界や行政、またマスコミなどの関係者は騒然となった。
さて、番組の収録を終えた安倍首相は午後4時すぎ、大阪市北区の牡蠣料理専門店に秘書官らを伴って現れた。実は、この店で公明党幹部らと会食するという情報が記者の間を駆け巡っていたのである。しかし、待てど暮らせど公明党の議員は現れず、食事を終えた安倍首相は上機嫌で伊丹空港から一路、東京へと戻ってしまった。では、この情報は嘘だったのだろうか。
在京の政治部記者は「首相と公明党の佐藤茂樹衆議員、白浜一良公明党顧問、大阪市議団の小笹正博団長らが首相と会う予定になっていたのは間違いない」と断言し、また首相が店を出たあと、記者から同席者を質問された店の経営者が「私と秘書官ら十数人。ただ4人のキャンセルが出た」と話していたことを考えると、公明党の幹部らは何らかの事情で同席しなかった可能性もある。あるいはまた、牡蠣料理店はマスコミの目をくらます煙幕で、実は別の場所で公明党幹部らとの接触は済んでいたという話まで出る始末。結局、真相は藪の中である。
仮に安倍首相と公明党幹部らとの接触が事実だったのなら、その目的はどう考えても大阪ダブル選挙以外にない。安保関連法案の話なら同席者の中に大阪市議団の責任者である小笹正博市議の名前が出るはずがないからである。先の3党合意のために公明党幹部らに頼み込むつもりだったと考えるほうが自然だろう。
私は基本的に3党合意を否定しない。いわゆる大阪都構想をきっかけとした維新の会と野党との対立構造から協調路線に舵を切れるならば、それは大阪のためにも決して悪いことではないからだ。だが、自民・公明・維新の3党で推した人物が大阪都構想を推進するつもりなら話は別である。都構想など百害あって一利なし、実現すれば大阪は破滅する。これらの問題点は私もこのページの連載記事でさんざん指摘した通りである。
また、大阪都構想を推進する人物を自民党や公明党が推せば、それはこれまで2党が主張していた反都構想の言説とも完全に矛盾する。5月17日の住民投票で反対票を投じた約70万人もの大阪市民を裏切り、同党の支持者らからも理解を得られなくなるだろう。合意の条件によっては自民・公明が維新と統一候補を立てることは2党にとって自殺行為になるのは間違いない。
地方分権と言いながら、ずっと昔から地方の政治は中央に牛耳られている。大阪も例外ではなく、この時期になっても大阪ダブル選の府知事選と市長選の候補が未定なのは、候補者の選定に大きな影響力を持つ大阪の自民党が官邸と党本部の様子をうかがっているからである。地元のことは地元で、大阪のことは大阪で決める―。この至極当然なことを実行できないところに地方の、大阪の不幸があるように思えてならない。
一方、維新の会の府知事選候補として松井一郎知事が再出馬する公算が大きいという。橋下徹大阪市長も「松井さんしかいない」と必死で持ち上げている。要するに、こちらも人材不足。橋下、松井の両名に代わる候補者が見つからないのだ。ただ、これは自民をはじめ野党側にも言えることで、いま現在、府知事選候補に「これだ!」といえる人はいない。一時、府知事選候補として俳優の辰巳琢郎さんの名前が出てきたのも大阪の自民党が「辰巳さんが出馬してくれるらしい」と焦って勘違いしたからである。
もっとも、少しでも大阪府の実情を理解している人なら誰も府知事などやりたがらないだろう。6兆円を超える借金総額は毎年のように過去最高を更新中。減債基金の積立不足も目立ち、そのため実質公債費比率は19%を超える勢い。早い話が借金だらけで金庫にカネがなく、やりたい独自事業もままならぬ状況なのである。いま府知事になることは“罰ゲーム”のようなもので、その主要な仕事は橋下、松井のダブル府政の尻拭い。まともな感覚の持ち主なら、新知事として真っ先に取り組むべき課題は財政再建になるだろう。
(2015年9月14日)
「大阪ダブル選挙」の検索結果(Yahoo!ニュース検索)
http://search.yahoo.co.jp/search?p=大阪ダブル選挙
大阪都構想(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪府の財政(ガジェット通信)
http://getnews.jp/archives/938588