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連載企画「大阪都構想を考える」最終回
反対多数で都構想は実現せず

吉富 有治
大阪
 大阪市を廃止して5つの特別区を作る、いわゆる大阪都構想に決着がついた。賛成694844票、反対705585票で勝利の女神は反都構想の陣営に微笑んだ。その差、わずか10741票。率にして全得票数の0.8%である。


 維新の会が都構想を掲げてから5年。これほどの短期間で漠然とした青写真から実現まで成し遂げたことは正直言って驚きである。都構想の輪郭が明らかになってきてからは、私も著書や講演などで批判を繰り広げてきた。だが同時に、ここまで大きな仕事をやり遂げた橋下徹さんと維新の政治パワーには素直に敬意を表したい。

 そもそもマスコミ各社による事前の世論調査や期日前投票の出口調査では「反対」が圧倒的に優勢だった。ところが5月17日の投票日の出口調査では、どの調査も賛成多数ばかり。ここまで賛成票が追い上げてきた理由はいろいろと考えられるが、1つは維新の会の物量作戦が成功したことだろう。4億円以上もかけてテレビCMを流し、橋下徹代表の声を録音したテープを大阪市内の各家庭に計100万回以上も無差別にかけ、また全国の維新の会の国会議員や地方議員、その秘書や運動員ら1000人以上が大阪に入ってドブ板作戦でPRを展開した。この作戦が功を奏して賛成票を増やしたと思われる。

 しかし結果は、反対票がわずかに賛成票を上回って都構想は頓挫した。「住民サービスは確実に低下する」「大阪市の財産が大阪府に奪われる」「大阪府とほぼ同じレベルの仕事ができる大阪市を廃止して、『村以下』の権限と予算しかない特別区に分けることなど正気の沙汰ではない」という反対派の主張に納得した有権者が増えたからだ。賢明な選択だといえるだろう。

 都構想がつぶれた現在、橋下さんの政治パワーと発言力は確実に衰える。本人も記者会見で明言したように、今年の年末に任期を終える大阪市長の再選はないだろう。噂された国政進出もないと考える。"一丁目一番地"だったはずの目標を失った今、維新の会も迷走を始めるはずだ。維新を離党して無所属になったり、自民党や他党に鞍替えする議員は増えると予想する。国政政党である維新の党も同じだろう。大阪選出の橋下派の議員は力を失い、いずれ分裂の危機を迎えるかもしれない。

 しかし、これで終ったわけではない。維新の会や橋下さんが突きつけた問題は無視できない。アベノミクスで景気は上向きといっても、恩恵に預かれるのは一部の大企業と一部の国民だけ。中小零細企業の街、大阪のムードはまだまだ暗い。これまで府市の対立もないわけではなかった。これらの難問をどう解決するのか。都構想がなくなった今、維新を含めた超党派で大阪の景気回復などに全力で臨む必要があるだろう。

 さて、今回の住民投票は大阪市を廃止するのか残すのか、この究極の重たい選択を大阪市民が背負うことになった。住民投票をめぐる賛成派、反対派の動きを眺めていると、これまでの議員を選ぶ選挙とは明らかに異なる点があった。それは、市民自らが立ち上がって賛成、あるいは反対運動に積極的に関わっている姿があちこちで見られたことである。

 党の支持者だから、あるいは地域のしがらみがあるから選挙運動をしている―。このような従来型の選挙にありがちな消極的な態度は減り、多くの市民が自発的に運動に関わっていた。学生も女性も年配者も、賛成の立場から、あるいは反対の立場で自ら街頭に立って演説したり、デモをする姿が明らかに増えていた。実際、口角泡を飛ばして賛成派と反対派の市民が街角で議論する姿も私は目撃している。

 これが橋下さんや大阪維新の会が言う「究極の民主主義」なのかもしれない。大阪市を廃止して特別区を設置するのか、それとも今の大阪市の形のまま大阪の発展を目指すのか。この二者択一は市民の生活に直結する問題だけに、市民が積極的にならざるを得なかったのだ。だとしたら、市民が政治に主体的に関わるという意味では、大阪市民は初めて成熟した民主主義を体験したと言えるだろう。

 だが、その一方で市民同士による感情的なしこりも残したように思う。賛成派の運動員と反対派の運動員が街頭で衝突し、罵声を浴びせることもあったと聞く。中には陰湿な妨害工作もあったようだ。そこまで極端ではなくても、おそらく住民投票が終っても、特に積極的に運動にかかわった市民には感情的なわだかまりはしばらく残るだろう。


 今回の住民投票は、確かに究極の民主主義だったのかもしれない。だが、それは同時に、大阪市民を二分する愚も産んでしまったように思えて仕方がない。しかし、悲観してばかりもいられない。大切なことは今回の教訓を活かすことだ。市民が自発的に政治活動をする中で敵対する陣営と激しい議論を交わしても、罵倒や非難中傷でなければ、そこに必ず新たな視点や発見が生まれてくるはずだ。たとえ激しい議論であっても恨みつらみを残すのではなく、これからの政治や市民生活に反映させるものを残す。そうあってこそ、本当の究極の民主主義の実現と言えるだろう。

(2015年5月19日掲載)



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大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

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