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連載企画「大阪都構想を考える」その14
大阪都構想のお粗末さ
成長性と効率性のまやかし


吉富 有治
大阪
 大阪都構想の目的は成長戦略と二重行政の解消にあることはこの連載でも既に述べた。これを簡単に言うと成長性と効率性の追及だろう。ただし二兎を追う者は一兎をも得ず。成長性と効率性は矛盾する場合もある。過去の大阪府、大阪市の歴史を振り返っても二兎を追って失敗した事例は少なくない。


 大阪都構想の目的である成長性と効率性とは具体的に、大阪の景気を底上げす成長戦略と二度と税金の無駄遣いをしない仕組みを作ることである。成長戦略とは、例えば国内外から企業を呼び込んで東京に次ぐ経済圏を作ること、あるいは話題のカジノを誘致して大阪を米国ラスベガスのような娯楽リゾート地にすることである。一方の効率性とは、多すぎる公務員や議員の数を減らしたり大型公共事業の開発が失敗して税金をドブに捨てることを避けることだろう。

 大阪の景気が良くなるに越したことはない。貴重な税金を湯水のように使ってもらっても困る。しかし、成長戦略にはその呼び水として多額の税金を出さなければならない。将来有望な企業を大阪に呼ぶには固定資産税や法人住民税の減免が必要だ。カジノを誘致するには鉄道の延伸や道路の整備は欠かせない。つまり成長戦略と税金の投入は、ほぼワンセットなのである。だが同時に、もし失敗すれば税金を無駄にしてしまうリスクを絶えず背負っている。

 事実、大阪市は過去、大阪湾を中心とした広大な埋立地に一大副都心を立地しようとして大失敗。大阪府においても、かつて「りんくうタウン」や「泉佐野コスモポリス計画」といった経済成長戦略が失敗して多額の負債を負っている。大阪府と大阪市、いずれの計画も当初は「大阪経済の発展」という高尚な目的があり、そのために多額の税金を投資として使い、また失敗の穴埋めのためにさらなる税金をつぎ込んできた。これら数々の失敗について大阪市は第三者機関を作って検証と分析をおこなってきたが、大阪府はこの分析と反省があまりに甘いのだ。維新の会や推進派の有識者らにしても大阪市の過去の責任は追及するが、なぜか大阪府はお咎めなしである。

 言うまでもなく大阪都構想は大阪市を廃止し、その一部の広域行政を大阪府に移管することである。大阪市は消えても大阪府は残るわけだ。その新・大阪府が大阪経済の成長を担い、目的達成のためにはどうしても多額の税金を使う。その上、大阪市の広域行政を引き継ぐわけだから、経済成長を名目にこれまで以上に税金をつぎ込むことになるだろう。もちろん大成功を収めるかもしれない。ただし、失敗すれば目も当てられないほどの借金の山を築くことになる。

 「大阪市を廃止すれば二重行政は解消され大阪府だけで広域事業がスムースにおこなえる」「過去の府の失敗は大阪市が存在したからだ」「大阪市がない今、大阪府の進める事業はすべて成功する」。こんな考えで新・大阪府が成長戦略を担うのだとしたら、おそらく過去と同じ失敗を起こすだろう。その失敗は過去のものより悲惨な形で現れてくるはずである。


 効率性という言葉も疑った方がいい。例えば、効率性を追い求めた結果の1つが5つに再編される特別区の議員定数である。ところが議員の数があまりにも少なく、おそらく大阪都の区議はまともな仕事などできなくなるだろう。

 大阪市の廃止後、一番人口の多い特別区は新・南区で人口は69万人。対して区議会の定数は23人でしかない。最も少ない新・湾岸区は34万人。議員は12人だ。これは人口1万人ほどの町議会と同じ規模である。現在、大阪市議会の議員定数は86人。大阪維新の会が効率性と税金の節約を追及した結果、区議会議員の定数の総数は大阪市議会と同じになった。「大阪市がなくなれば一部の仕事が大阪府に移り、特別区の仕事は減ることになる。諸外国でも議員定数は日本ほど多くない」という理由からである。しかし、それこそ大きな勘違いというものである。

 現在、大阪府と大阪市がおこなう事務の数は府が2149、市は2145である。これが大阪市の廃止後には府は2381、特別区は1676となる。なるほど、数字だけを見ると確かに大阪市は2145事務から1676事務となり、特別区の区議は仕事量が減るように見える。だが、大阪市の廃止後は1676事務を5つの特別区で分割するのではない。これらの事務の多くは基礎自治体として扱う福祉や健康、教育、環境などの仕事であり、5区それぞれが1676事務を抱えることになるのだ。

 例えば議員定数12人の新・湾岸区では、この12人の区議が1676事務をチェックする必要があり、区議1人あたりが見る事務数は単純計算で1676÷12人≒140となる。一方、現在の大阪市の議員定数は86人。議員1人当たりの事務数は同じく単純計算で2145÷86≒25事務。特別区の区議1人あたりの事務数は140、対して大阪市は25。ざっくり言うと特別区の区議は大阪市議に比べて事務のチェック項目が5.6倍になるということである。これでは1人の区議が議会常任委員会をいくつも掛け持ちしなければならず、行政の仕事をチェックするという議会本来の仕事すらおざなりになる可能性がある。ここに議長と副議長を置けば、区議1人あたりの仕事量はさらに増える。


 成長性と効率性という言葉だけを聞けばなんだか素晴らしいものに見えてくるが、実態に即して考えればいずれもお粗末なものではしかない。かえって税金を無駄遣いしてしまう可能性が高いのだ。言葉を変えれば大阪都構想の中身もそれだけお粗末ということである。

(2015年5月12日掲載)



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大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

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