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連載企画「大阪都構想を考える」その13
今のまま? それとも悪くなる?
気になる住民サービスの行方


吉富 有治
大阪
 いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票まで残り13日となった。政令市を廃止するかどうかを決める住民投票は日本で初めてのことだ。4月27日の告示日を過ぎてからは賛成派と反対派は熱を帯び、大阪市内で激しい舌戦を繰り広げている。


 賛成派である大阪維新の会は橋下徹代表と松井一郎幹事長がタウンミーティングで演説し、都構想推進のシンボルカラーであるオレンジ色のTシャツを来た維新議員たちも連日、街頭でメリットを訴えている。一方、反対派の筆頭は自民党だ。自民党大阪府連は告示日以降、本格的に反対運動をスタートさせた。市会議員が中心になって市内24区で街宣車を走らせ、都構想の欠点を訴えている。同じ反対派でも公明党は少し遠慮気味である。一般の有権者ではなく、党員のみを対象とした反対運動に特化している。理由は、支持母体である創価学会の本音が都構想に協力的であるためだ。

 さて、この住民投票で大阪市民が一番気になる点は、おそらく生活がどうなるかだろう。良くなるのか、それとも逆に悪くなるのかが最大の関心事だと思う。これについて反対派は「住民サービスが低下する」と訴え、対して賛成派は「サービスは変わらない」と反論する。だが、大阪都構想の設計図である特別区設置協定書を眺めてみても、とても今のままの住民サービスが維持できるとは思えない。

 例えば国民健康保険である。保険料は値上がりする可能性が高いだろう。

 現在、大阪市の国民健康保険事業(国保)は被保険者の負担を軽くするために大阪市の一般会計から予算が繰り入れられている(下図)。要するに税金による補てんである。この国保事業は大阪市の廃止後、一部事務組合への移管が予定されている。一部事務組合とは市町村や特別区が、役所がおこなう仕事の一部を共同で処理するために設ける組織のことで、法律上は特別地方公共団体である。

国民健康保険の財源構成
国民健康保険の財源構成(大阪市HPより)


 さて、国保事業の移管後に問題になるのは、今は大阪市の一般会計から補てんされている市税が一部事務組合でも減額せずにおこなわれるかどうかだ。もし減額されたら国保の保険料は確実に値上がりする。果たしてこの点はどうなるのか。実は特別区設置協定書には何も記されておらず、制度設計を担った法定協議会でも踏み込んだ議論はされていない。結局、住民投票で賛成多数になった後の話ということになる。

 補てんのスキームはどうなるのだろう。特別区の少ない自主財源(個人住民税、軽自動車税、たばこ税の3つだけ)では国保事業への補てんは無理だろうから、大阪府から特別区に渡る財政調整資金(特別区が自立するための府からの仕送り資金)の中に加算して組み込まれるか、それとも大阪府の府税から一部事務組合に直接流れるかのどちらかになるはずだ。あるいは予算が足りず、補てんゼロの可能性もある。事実、今の大阪市でも市税からの繰り入れを減額しようとする動きがあるくらいだ。いずれにしても大阪府の胸先三寸である。その大阪府は財政事情が悪いうえ、大阪市廃止後の府が抱える借金総額は8兆円を超える。自転車操業の大阪府が国保事業への補てんを止めることは十分にあり得ることだ。

 ところで厚生労働省は、これまで市町村の運営だった国保事業を2018年4月からは都道府県に移す予定でいる。赤字に苦しむ国保事業の財政を立て直すためだが、一部事務組合から大阪府に移ったところで府の財政が火の車である以上、保険料が上っても下がることはないだろう。

 「反対派は国保や公共料金が値上がりすると言っているがデマだ」と維新の会は主張する。だが、一部事務組合への補てんスキームが何も決まっておらず、これまでと同じ補てん額の担保もされていない以上、必ずしも「デマ」とは言えないだろう。大阪市の国民健康保険には市民の約3割が加入している。もし保険料が値上がりすれば未加入者が増えたり生活や消費に大きな影響が出るのは間違いない。

 家庭や事業者から出るゴミの収集事業も有料化、または値上がりすることも考えられる。ゴミ収集業務は一般家庭と事業者向けに分けられ、大阪市でも家庭が出すゴミは市が、事業者が出すゴミは市が許可した民間業者が収集作業に当たっている。家庭ゴミの場合は住民サービスとして税金で全額負担されるが、事業者が出すゴミは事業者自身が負担する。その内訳はゴミ収集費と焼却費の2つ。ゴミ収集費は許可業者への手数料、焼却費は焼却場に支払う経費である。

 このゴミ焼却費の一部は現在、ゴミを出す事業者の負担を軽くする目的で大阪市が税金で補てんしている。民間ゴミ収集事業者の互助組織である大阪市一般廃棄物適正処理協会によると、本来の焼却にかかる原価は1kgあたり約12円。そのうち大阪市は1kgあたり約3円を税金で補てんしている。ところが大阪市廃止後にどうなるかは国保事業と同じで、まだ何も決まっていない。この税金による補てんも大阪府の財政次第、胸先三寸ということになる。これは家庭ゴミも同じである。大阪府の財政事情や時の府知事、府議会の意向によって有料ゴミ袋を区民に求めることもあり得るだろう。

 事実、大阪府内では泉佐野市がそうだった。関西国際空港の発展を見込んで病院などの大型公共施設を次々と建てた泉佐野市は財政難に陥り、その窮余の策として2006年からは粗大ゴミだけでなく生ゴミなどの収集まで有料にした。これに反発した市民が規定の署名を集めて有料化反対の住民投票条例の制定を求めたが、議会は否決。有料化後は1枚あたり50円という"高価"なゴミ袋を市民が買わされることになったのである。


 大阪維新の会など賛成派は「特別区になっても住民サービスは低下しません」というが、その根拠は決して十分なものではない。「特別区になっても変わらない」というのであれば、現状の大阪市のままの方が、まだ確実だろう。

(2015年5月5日掲載)



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大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

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