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連載企画「大阪都構想を考える」その9
わかりやすい政治からの脱却を

吉富 有治
大阪
 ワンフレーズ・ポリティクス―。意訳すれば「わかりやすい政治」である。一言で政治の状況や問題を象徴的に表現することで国民や有権者の心に響くよう訴えることである。このワンフレーズで最も多く政治を語ったのは小泉純一郎元首相だろう。悲願の郵政民営化を実現するために「自民党政治をぶっ壊す」「構造改革なくして成長なし」といったワンフレーズを駆使し、国民から圧倒的な支持を得て長期政権へとつながった。しかし、ビジネスでも学問でも、また政治の世界でもわかりやすいことが必ずしも正しいわけではない。物ごとは複雑であり人びとの価値観も多様だ。決してワンフレーズで表現しきれるものではない。短くて平易な言葉は誰の心にも響いてくる反面、ときに本質を見誤ってしまうことがある。ワンフレーズ政治が国民を熱狂させ、その熱狂が国家的な暴走へと変化し、そして最後は国民が地獄を見た世界の歴史を私たちは知っている。


 大阪維新の会の橋下徹代表はこのワンフレーズを武器に大阪都構想の実現に全力を注いでいる。だが残念ながら、ここでもワンフレーズは本質から目を逸らす目的に使われることが数多い。
 
 そもそも大阪都構想の「大阪都」すらそうである。いまになってようやく多くの人が知ることになったが、5月17日の住民投票で賛成多数になっても大阪府の名称が大阪都に変わるわけではない。大阪府の名称を大阪都に変更する特別法を衆参両院で可決し、その後、憲法95条の規定により大阪府民を対象にした住民投票を実施。そこで賛成多数を得る必要がある。つまり「大阪都」の名称を使うには多段的な法的プロセスを踏む必要があるのだ。その説明をすっ飛ばして住民投票で賛成多数になれば「都」を名乗れるかのようなワンフレーズは不誠実な態度でしかない。

 「二重行政を廃止する」という言葉もワンフレーズでよく使われる。これをなくすことが大阪都構想の大きな目的だと橋下さんや維新の会の議員らは説明する。その象徴として橋下さんは頻繁に大阪府と大阪市の負の遺産である「りんくうゲートタワービル」(泉佐野市)と大阪ワールドトレードセンタービルディング、通称WTC(大阪市住之江区、現・大阪府咲洲庁舎)を取り上げる。大阪府と大阪市が両ビルの建設競争に明け暮れた結果、共に破綻して莫大な借金を背負ってしまった、だから大阪都構想が必要なのだと訴えている。

 さらに最近では、大阪府と大阪市が「張り合った」という言葉を使って二重行政の説明に若干の具体性を持たせている。この言葉を聞いた人たちは「大阪府と大阪市が張り合う姿は健全ではない」と考えるだろう。では橋下さんが取り上げた2つのビル、何を「張り合った」のだろうか。まず思いつくのは事業内容だ。りんくうゲートタワービルは、大阪府が1984年に素案を取りまとめた「りんくうタウン計画」の一環として建設された高さ256メートルの超高層ビルである。りんくうタウン計画は関西国際空港の開港にあわせ、対岸の広大な敷地に国内外から企業を誘致し、大阪経済の発展に貢献するという触れ込みだった。一方、大阪市のWTCビルは「テクノポート大阪計画」のシンボル的な存在だった。テクノポート大阪計画は、りんくうタウン計画と同様、大阪市内に位置する大阪湾の埋め立て開発で、こちらも国内外から貿易関連の企業を呼び込み、大阪の景気に刺激を与えるという目的があった。だが両者は2005年前後、相次いで経営破たん。大阪府、大阪市ともに莫大な借金を背負う原因となってしまった。

 両者の計画内容は「大阪経済の発展」という意味では類似している。しかし、似ているから二重行政だと考えるのはあまりに短絡的すぎる。りんくうタウン計画は南大阪を中心に、かたやテクノポート大阪計画は大阪湾北部を主要なエリアとして、それぞれ役割分担ができていた。確かに類似した事業内容だったとはいえ、この分野において大阪府と大阪市との間で「張り合った」事実はない。せいぜい互いに頑張ろうという気持ちであった。その証拠にテクノポート大阪計画の関連事業には当時の故・岸昌大阪府知事が顧問として名を連ねている。もし大阪府と大阪市が張り合っていれば大阪市の事業に府知事が顧問に就任するはずもない。

 とは言え、ある一面で張り合ったのも事実である。それは事業内容ではなく、呆れたことにビルの高さだった。大阪府が建設するりんくうゲートタワービルの高さが256メートルに達することを知った大阪市は「西日本一の超高層ビルは大阪市が建てる」という子どものような発想によって、当初は156メートルだったWTCの高さを急きょ同じ高さの256メートルに変更。そのため総工費は倍の1200億円にまで膨らんでしまった。では、もし高さを張り合うことがなければ2つの超高層ビルの経営破たんは免れたのだろうか。いや、同じように破たんしていたのは間違いない。この連載の4回目でも書いたように、両ビルの経営破たんの原因は、テナント需要の予測とバブル経済が崩壊したあとの景気予測があまりにも甘すぎたからである。このようなずさんで甘い経営姿勢のまま、仮に大阪市のWTCだけを中止し、りんくうゲートタワービルだけ竣工しても二重行政とは関係なく結果は同じだっただろう。

 ワンフレーズによる説明は確かにわかりやすい。その反面、わかったと納得することで、その後の思考は停止してしまう恐れがある。わかったような気持ちになって、本当に大切な問題や物ごとの本質を見失う危険をはらんでいる。世の中も政治も決して単純なものではない。複雑で難しい場合が多い。わかりやすいからと安易に飛びつくと、あとで手痛いしっぺ返しを受けることにもなりかねない。


 大阪都都構想とは何か、それがもたらす影響とはどのようなものか。5月17日の住民投票まで40日。それまで各地で説明会がおこなわれるだろうが、決してワンフレーズで納得した気になるのではなく、そこに隠れた本質を知る努力が有権者に求められている。

(2015年4月7日掲載)



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大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

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