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連載企画「大阪都構想を考える」その7
インタビュー 東京都世田谷 保坂展人区長
〜 都構想に賛成する区長の声など聞いたことがない 〜

吉富 有治
大阪
 インタビュー編の2回目は東京都世田谷区(人口約87万人)の保坂展人区長に登場していただき、特別区の立場から大阪都構想への感想を語ってもらった。


―大阪都構想をどう見ているか。
 世田谷区長である私の立場から確実に言えることは、東京23区の置かれている実情を大阪市民や政治家の皆さんはどれほどご存じなのかということだ。特別区は都から不当な支配に置かれ、“”下部団体”として見下げられてきた歴史がある。区の権限が制限され、そのため世田谷区も政令市を目指すという時期もあった。過去の区長の中には「世田谷独立宣言」というポスターまで作った人もいる。東京の都区制度は戦時下にできたもので歴史的な役割はほぼ終わっている。今は都と区との間で調整に次ぐ調整を重ねながらやっと持ちこたえている制度だ。東京23区の区長の中で大阪都構想に賛成の声は聞いたこともない。
―特別区は法律上は基礎自治体、つまり一般の市と同じ位置づけだが、それでも東京都による支配関係は消えないのか。
 例えば特別区が基礎自治体なら街づくりに不可欠な都市計画の決定権限はあるはず。全国の市町村の中で23区(特別区)だけこの権限は除外されている。また特別区を考える場合、財源と権限にも着目してほしい。財源でいえば法人住民税、固定資産税、そして都市計画税、これらは一律に東京都が徴収してしまう。そのうち45%は都に、残り55%は23区の実情に応じて再配分されている。例えば街並みだとか環境に貢献する集合住宅を作るとか、それらを政策的に打ち出したいときに利用するのが固定資産税の減免。ところが固定資産税は都税だから区で減免はできない。また今年8月に楽天の本社が世田谷区に移転してくる。だが、これで世田谷区の税収が増えるということはない。住民が増えて住民区民税が増収になるといった間接効果くらいなものだろう。一方で子育て支援はもっとニーズが高まる。
―財源や権限など都と区の間で問題が起こった際、「都区協議会」という調整機関がある。これは機能しているのか。
 都の言い分、区の言い分が平行線になってしまうケースが多い。その最たるものが権限の問題だ。都の持っている事務を区に移してほしいという要望を現在も50数項目は出している。だが都の態度も硬い。児童相談所だけは切り離して議論することになっているが、話し合いは進むどころか後退している。
―大阪都構想の主要な柱の中に住民にやさしい基礎自治体、いわゆるニアイズベターがある。単純に人口が減ればニアイズベターは実現すると思われるか。
 私は区長として地域集会や車座集会を開いて住民の声を聞く努力はしているが、それでもすべての住民と話をしている印象はない。世田谷区には5つの総合支所があり、そこからさらに27の地区行政施設がある。地域の包括ケアなどは27地区での実現を目指す。これだと1つの地区当たりの人口は2万人から5万人。これくらいだと住民の声を拾っていける感じはする。実際には1人の首長が何10万人もの区民の声を拾い上げられるとは思えない。また大阪都構想で何が便利になるのか、大阪市民にはそこを基準に考えてもらいたい。(特別区の設置によって)行政サービスはもっと身近に、もっと便利になるのか。この点が住民にとって大切だと思う。都市部の住民が抱える大きな課題は高齢と介護、そして子育て支援のさらなる充実だ。大阪都になるとどう変わるのか。高齢者に対しても対策が進むとか、子育て支援が拡充できるといった視点が重要かと思う。
―東京都は広域行政、23区は基礎自治体。この役割分担は機能しているのか。
 警察や消防、また水道などは区が個別で運営するより広域行政の都がコントロールした方が効率的だろう。ただ広域行政も中身によっては首をひねるものもある。東京の街を見てほしい。高層ビルがあちこちに部分的に建っていたりと、おもちゃ箱をひっくり返したような姿だ。都市には本来、(ビルの立ち並ぶ)都心もあれば田園的な風景もある。緑のベルト(グリーンベルト。無秩序な住宅建設を防ぐために設置された森林帯)もある。それが東京都にはない。お金があるときに(高層ビルなどを)建てるといった、その時の雰囲気や新自由主義的な考えでやった結果だろう。広域行政と言いながら、どうも住民から遠い感覚がある。公園整備のように広域行政といっても区が実施したほうが区民のためになる場合もあり、区に移管してもらいたい広域事務は少なくない。
―大阪都の特別区は中核市なみの権限だと維新の会は主張している。
 そうすると固定資産税とか法人住民税、都市計画税などは区が取るわけか?
―いえ、それらは都に吸い上げられる。大阪都の特別区の自主財源は個人住民税、軽自動車税、たばこ税の3つだけ。
 その財源で中核市並みと言うのなら世田谷区も中核市並みだろう。問題は(都の)さじ加減が存在すること。区の内部の財源は明朗会計なのだが、(都からの財政調整で)なぜこれだけの交付金が付いたのか、逆に減ったのという詳細は最後までわからない。都が財政調整のさじ加減をする立場にある限り、区を対等ではない下部団体と考えがちになってしまう。
―大阪を大阪都にする場合、保坂区長は「住民にとって何が便利なのかを見てほしい」と指摘された。あと何か注意点があれば。
 都になれば素早い政策の打ち出し、決定が早いといったスピード感が強調されるが、これも少し考え直した方がいい。例えば2020年に開催が決まった東京オリンピックを見てほしい。猪瀬直樹さんが都知事を失脚せずにスピード感を持ってオリンピック関連の政策を進めていれば、おそらく東京都は財政上、大きな負担を背負うことになっただろう。あまりに経費の膨張がひどすぎた。これが舛添要一都知事に代わったことで方針転換した。新しい競技施設ばかり作るのではなく既存施設も使うことになった。首長は万能ではなく間違うこともある。新たな政策を打ち出した途端、様々な要因から予算が膨らんでしまうこともある。スピードばかりが能じゃない。やはり熟議も大切だと思う。(都市の予算規模に応じた)サイズの中で費用対効果を検証しながらやっていく、多くの人たちがチェックして合意していく。そんな民主主義のプロセスも大事だと思う。
(2015年3月24日掲載)

■保坂 展人(ほさかのぶと)
 1955年宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書を
 めぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリス
 トを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年('03
 〜05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英
 社新書)、『88万人のコミュニティデザイン』(ほんの木)ほか
 著書多数。


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大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

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