JavaScriptが使えません。 BACK(戻る)ボタンが使えない以外は特に支障ありません。 他のボタンやブラウザの「戻る」機能をお使い下さい。
本文へジャンプ サイトマップ 検索 ホームへ移動
ホーム 更新情報 フラッシュアップ スクラップブック 黒田清JCJ新人賞 活動 事務所

Webコラムのコーナートップへ
連載企画「大阪都構想を考える」その3
欠ける成長戦略
〜 都構想でなければ大阪の発展は無理?

吉富 有治
大阪
 前回までは大阪都構想の外観を眺めてみた。そこで今回からは都構想の中身について考えてみたい。まず、大阪都構想の柱は大きく分けて3つある。1つは経済成長戦略、次に二重行政の解消、そして住民に近い基礎自治体(ニアイズベター)の実現である。大阪維新の会は最近、これを集権化、分権化、民営化(効率化)と呼ぶが内容は同じである。では、一つひとつ見てみよう。


 まず経済成長戦略である。これは前回のコラムでも記した「4 大阪の潜在可能性を顕在化させ成長戦略を策定する」(大阪維新の会「大阪再生マスタープラン 大阪府域の再編」より)の部分である。

 大阪市を廃止して代わりに5つの特別区を設置し、大阪市の広域行政機能を大阪府に統合すれば、それまで巨大な権限を握った大阪市長は消えていなくなるのは間違いない。大阪市が持っていた権能の多くは大阪都知事(実際は府知事)が持つことになる。維新の会によるとこの意味は、大阪府と大阪市がムダな公共事業などに分散投資するよりも、1人の都知事が集中投資する方が効率的であり、国内外から企業や人を呼び込める契機になると訴える。また、大阪市を廃止したことで大阪府と大阪市の間に横たわる二重行政も霧散すると主張する。果たして本当なのだろうか。

 まず現在の大阪都構想に決定的に欠けるのは、この経済成長戦略だろうというのが私の認識である。特別区設置協定書にも大阪の成長戦略といったものは一行も書かれていない。

 成長戦略が文字として書かれているのは大阪維新の会の「大阪広域マニフェスト」と各特別区の「区マニフェスト」のみである。例えばこの大阪広域マニフェストには大阪都が目指す将来像として、「大阪を、”国際エンターテイメント都市”へ進化させる経済成長戦略を実施。年2%以上の経済成長を達成します」とし、カジノを含むIR(Integrated Resort 統合型リゾートの略)を誘致するとしている。またインフラ整備として「大阪のヒト・モノの流れをよくするため国に強力に働きかけ、リニア中央新幹線の大阪まで同時開業を実現します」などとも記している。これらの政策は維新の会の公約で、大阪都が誕生すれば実現可能だというものである。

 なるほど、府知事にとって目の上のタンコブだった大阪市長が消えて大阪都知事だけに権限が集中すれば企業誘致のための都市整備、交通・情報インフラなどに集中した投資しおこないやすくはなるだろう。とは言え、大阪都知事といえども地方自治の基本である二元代表制のもとでは議会の意志は無視できない。いくら都知事がバラ色の政策を掲げても議会が「NO」といえば一歩も前に進まないのはいまの状況と変わらない。

 しかし、そもそも都市制度と景気のメカニズムは別次元の話ではないのか。80年台末から始まったバブル景気は大阪に巨額の不動産投資などが集中し、崩壊後は金融破綻や不動産価格の下落など深い傷跡を残した。地上げに失敗し、点々と広がる虫食い状態の空き地がコインパーキングに変身する様子を私も嫌というほど目にしてきた。バブルの良し悪しは別として、一方で当時の大阪の景気が湧いたのは事実である。サラリーマンの給料やボーナスは右肩上がり、就職希望の学生の囲い込みに企業は苦労した。消費者サイドでは高級レストランでの食事やクルマや宝石の嗜好品の買い物が増え、億ションと呼ばれるマンションが飛ぶように売れたのは確かだろう。ではこの時代に大阪都は完成していたのか。大阪府と大阪市は厳然と存在し、行政の形はいまと変わらなかった。これは極端な事例だが、都市のあり方と景気の変動は異なった要因で動いているという見本だろうと思う。

 逆に言えば、大阪都が完成しても景気が良くなる保証はまったくない。その証拠に、大阪維新の会の政策特別顧問で慶応大学教授の上山信一さんは「大阪都構想で経済が良くなるなど、言っていない」と明言されている(「WEDGE 2014年4月号」)。また、橋下さん自身も第4回「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会」の席上で大阪経済について「制度を変えたからといって、すぐに経済が良くなるとは思わない」と発言している。その理由として日本の国際的プレゼンスの低下や企業流出、東京一極集中などを挙げており、大阪市が存在するから経済成長ができないとは言っていないのだ。


 大阪のトップが大阪都知事1人になったとしても、効率的な公共投資ができるとは限らない。予測が甘ければムダな投資となり、かえって巨額の赤字を生むことにもなりかねない。東京でも実質的な都営銀行である新銀行東京はどうなったか。果たしてベイエリア開発や第三セクターは順風満帆に進んだのか。トップが1人だろうが複数だろうが、議会と行政がしっかりしなければ誤った政策をおこないかねない。いや、正しいと思った政策にしても、バブル崩壊やリーマン・ショックのような景気変動で結果的に赤字や借金を抱えることにもなりかねない。大阪府と大阪市が再編して大阪都知事1人になっても、まったく同じことが言えるだろう。

 大阪府の松井一郎知事や橋下市長は経済成長戦略として、たとえば国内外からの企業誘致、また交通インフラ整備の要としてリニアモーターカーの大阪誘致の早期実現や、関西国際空港へのアクセス強化を訴えるが、これにしても必ずしも大阪都である必要はない。現在の大阪府、大阪市を残したままでも可能なことなのである。(続く)

(2015年2月24日掲載)


連載企画「大阪都構想を考える」その2 都構想の外観を眺めてみる
連載企画「大阪都構想を考える」その1 都構想のルーツを探る

大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪都構想 二重行政のムダをなくす。豊かな大阪をつくる。(大阪維新の会)
 http://oneosaka.jp/tokoso/

戻る このページのトップへ