突如として決まった住民投票
公明党寝返りの背景に迫る
吉富 有治
いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票が今年5月17日に実施される見込みが強くなった。同構想の協定書は昨年10月末、府議会と市議会で承認を得られず、このままゴミ箱行きの可能性が大きかったのだが、突如として公明党が手のひら返しのような行動に出たことで事態は一変した。住民投票の結果次第では大阪市は解体されることになった。
公明党の豹変ぶりを最初にスクープしたのは昨年12月26日付けの読売新聞。その後、年の瀬が押し詰まった2014年大晦日、その日の毎日新聞朝刊29面にも「公明『寝返り』再始動 法定協議会維新ペース」という見出しが踊った。
毎日の記事では公明党が「寝返り」した背景について、「維新関係者は『今回の絵を書いたのは菅義偉官房長官と松井幹事長。憲法改正を見据え、菅氏は維新を離したくないのだろうと話す。公明党関係者によると、菅氏は学会幹部と『維新が衆院選で一定の議席を取れば、改めて話し合う』と合意し、衆院選後に維新への協力を呼びかけ、自公連立を維持したい公明側も受け入れたという」と読売の記事よりも一歩踏み込んだ分析をしていた。私が公明党と創価学会関係者に取材した範囲でも毎日の記事と内容はほぼ同じ。ただ、官房長官と気脈を通じていた学会幹部の背後には関西創価学会の古参幹部が控えているとも聞いている。
維新-官邸-学会のラインで公明党本部に指令が下り、住民投票の実施という維新の"逆転勝利"となった今回の騒動。維新を利用して憲法改正を企てたい安倍政権と、連立与党から滑り落ちることへの恐怖がある創価学会と公明党本部に大阪が振り回されたとしたら地方分権、地方自治はどこに行ったのかと憤りを感じざるを得ない。一方、その創価学会は大慌て、火消しに躍起なのだという。読売と毎日が学会本部の政治的関与を伝えたことで、政教一致批判が再燃することを恐れているのだと漏れ伝わってくる。
公明党大阪府本部は昨年12月28日、大阪市内で臨時会合を開いた。今回の方針転換について佐藤茂樹代表(衆議員)は席上、「公明党本府の山口那津男代表と井上義久幹事長からの意向」と説明したが、事実を知る府議、市議らは鵜呑みにしはなかった。ある議員は「創価学会に責任が及ばないようにするため党代表が指令を下したシナリオに書き換えた」と私に打ち明けた。未確認だが、この会合になぜか関西創価学会の幹部が同席し、目を光らせていたとも聞く。
公明党関係者は今回の騒動の狙いについて、こんな見方を披露した。「政教一致批判が起こりつつあるのは事実。むしろ菅官房長官はそれを狙っていたのではないのか。公明党と創価学会に世間からの批判を浴びせ、それを口実に連立を解消し、その後は維新と結びつき憲法改正へと突き進む…」。この指摘はまったく絵空事でもないように思う。安倍政権にとって公明党は連立パートナーだが、憲法改正には目の上のたんこぶ。いずれ排除したい存在だとしてもおかしくはない。
では、維新はどうなのか。同党は地方分権を唱え、大阪都構想こそ地方が自立する象徴などと喧伝する。いや、まったく違うと思う。今回の騒動の発端は維新が太いパイプのある菅官房長官に頼み込んだことだった。官邸から創価学会を揺さぶり、学会は宗教的権威を利用して公明党本部に命令する。この特殊な政治力学を利用して大阪の公明党に方針転換させた維新の作戦は見事というほかはない。だがこれは、地方分権を唱える維新も中央の力を利用しており、中央⇒地方というベクトルの向きが地方⇒中央に変わったにすぎず、地方の問題は地方で解決するという地方自治の原則から外れていることに変わりはない。
この維新的な地方自治観が今後も存続し、かれらが政権中枢に入り込んだらどうなるのか。たとえ大阪都(注・特別法の制定がない限り名称は「大阪府」のまま)ができたとしても、その時の首長と第一党が時の政権与党と同党だったとしたら、中央から地方へ命令が下るという、地方自治など絵に描いた餅の相変わらず同じドタバタ劇が繰り返されることだろう。
(2015年1月27日)
大阪都構想(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
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