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特定秘密保護法 知る権利への『配慮』は本当か

吉富 有治
国会

 特定秘密保護法が可決した。この法律が持つ様々な欠点や危険性は多くの有識者から批判されているが、私は今回、「この法律の解釈適用」を定めた第22条1、2項の落とし穴について指摘しておきたい。


 特定秘密保護法の推進派はこの条文を根拠に「正当な取材なら問題はない」としているが、果たして何をもって「正当」とするのだろうか。この曖昧な表現は時の政権の恣意的な判断が入り込む余地を残すと同時に、そもそも「(報道には)配慮しなければならない」としていること自体、もはや“まやかし”と言わざるを得ない。配慮もなにも、憲法21条は国家に対して言論の自由や国民の知る権利を保障せよと命じているのだ。憲法を遵守すべき立場の国は本来、「国民の知る権利はこれを保障する」と条文に記さなければならないのに、あえてそれをやらない。やらないところに官僚たちの“腹黒い思惑”があることを私たちは見破らなくてはならないだろう。

 この条文は訓示規定である。つまり努力目標であって、この条文を破ったからといって政府や捜査機関が罰せられるわけではない。たとえば軽犯罪法の第4条には「この法律の適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」と拡大解釈にブレーキをかける文言がある。だが実際はどうだろう。出前のチラシをポストに投函しても罪には問われないが、市民団体が沖縄基地反対のビラを郵便受けに入れたら公安警察に逮捕される。こんなデタラメな事例が山ほどあるのは、捜査機関が「配慮」などしていない証拠ではないか。

 検察や警察は必ずしも犯罪を取り締まるのではない。過去の冤罪事件を見てもわかるように、ときとして潰したい相手を犯罪者に仕立て上げることなど平気でやる。たとえ証拠が不十分で筋の悪い事件であっても、政権にとって、あるいは捜査機関にとって「アイツは邪魔だから潰してやろう」という理由で、バカげた捜査をする場合が多々あるのだ。ウソだと思うのなら元外務省職員で作家の佐藤優さんの『国家の罠』を読めばいい。国策捜査の実態が嫌というほど描かれている。

 特定秘密保護法の第22条については国会でも質疑があり、政府参考人や担当閣僚が「法令違反や著しく不当な取材でない限りフリーランスを含めて報道機関が対象になることはない」などと答弁している。答弁に立った森雅子大臣は「本条は、法律の適用解釈について規定するものであり、行政機関はもとより、捜査機関や裁判所等においても解釈適用の準則となり、本法案の解釈適用に当たる当事者全てが報道または取材の自由に十分配慮すること、通常の取材行為は正当な業務による行為であることに留意することになるものと思っております」(第185回国会「国家安全保障に関する特別委員会 第13号」 11月14日)と答弁している。なるほど、「思っております」だそうだ。だが、政府答弁は行政上の拘束力は持っても法的拘束力を持たない。法的な縛りを受けない以上、かりに裁判になった場合、裁判官が過去の森大臣の答弁を判決の根拠にする可能性は低いのである。


 おそらく森大臣や質疑に立った議員は取材の現場を知らないのだろう。国会の質疑では教科書に書いてあるような型通りの取材方法しか述べていない。だが実際の報道現場はスクープ性が高ければ高いほど法律に触れるかどうか、ぎりぎりの綱渡りなのだ。

 通常の取材でも罪に問われる可能性はある。たとえば居酒屋あたりで懇意にしている官僚から特定秘密を偶然聞いたとしよう。しかもその内容は、かつての沖縄返還の密約のように国民の利益に反するものとする。報じたら大スクープだが、記者はそのまま鵜呑みにして記事にすることは絶対ない。必ず裏を取る。「証明する内部資料がほしい」などと頼み込むのが普通だ。嫌がる相手の自宅に日参して口説き落とすくらいのことはするだろうし、ときには酒を飲まして押したり引いたりの綱引きも演じるかもしれない。

 さて、記者の努力の甲斐あって機密情報をスクープしたとする。政府からの批判には記者も新聞社も報道は公共の利益のためになり、取材も正当であると世論に訴えるだろう。しかし秘密をばらされて怒った政治家や官僚たちは「はい、その通りです」とは素直には考えない。最悪の場合には捜査機関に命じ、一罰百戒だといわんばかりに記者のアラを探して逮捕・起訴することは十分に考えられる。相手の自宅を日参したのは「脅迫」であり、酒を飲ませての依頼は「教唆」だとし、資料の入手は「共謀」の証拠に他ならないといった"合理性"のある根拠から取材の正当性をことごとく否定するだろう。漏らした公務員が異性ならスキャンダル事件に仕立てあげ、報道の自由の問題から記者のアンモラルな行為へと論点をすり替えてくるかもしれない。

 さらにタチが悪いのは、この法律は未遂でも罰すると規定されている。記者が記事にしなくても、漏らした官僚が保身のために「脅されて資料の提供を要求された」と密告すればこの記者はアウトである。おまけに密告した官僚は無罪放免になるかもしれない。法律には「(略)共謀したものが自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する」(第26条)と記されているからだ。


 国会で森大臣らが答弁した以上、いまの安倍政権が露骨な報道つぶしをやるとは思わない。けれど時代も政権も変わったら、これはわからない。過去の国会答弁などどこ吹く風。たとえ正当な取材方法でも政権にとって不利益のある報道は「著しく不当な取材だ」という嫌疑をかけられて記者がお縄になることも十分にあり得るのだ。そして裁判ではあくまでも法律の条文と判例に従い、昔の国会答弁などお構いなしに判決を出すというわけである。

 取材などを通じて、日ごろから政府のご都合主義や捜査機関の卑劣なやり口を嫌というほど知っている記者にすれば、「法の運用は厳格になされる」と主張する政府与党などは、まことに脳天気でオメデタイとしか思えないだろう。

(2013年12月12日)

新聞


「秘密保護法」はどのような法律か(Yahoo!みんなの政治)
 http://seiji.yahoo.co.jp/close_up/1363/
特定秘密の保護に関する法律(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/特定秘密の保護に関する法律
特定秘密+報道(Google 検索)
 http://www.google.co.jp/search?q=特定秘密 報道&num=100&newwindow=1

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