橋下市長、「有識者会議」発言のウラ事情
吉富 有治
言うまでもなく、大阪維新の会と橋下徹大阪市長にとって大阪都構想は政治的な悲願である。その都構想を大きく軌道修正するような発言が橋下市長から飛び出したからびっくり仰天した。さらりと言ってのけたので気がつかない人も多かったが、これは都構想にメリットがないことを橋下市長が白状したと私は受け止めた。
ことの発端は7月31日の退庁時の囲み会見である。この日、大阪市会(注・大阪市では大阪市議会を「大阪市会」と呼ぶ)の大都市・税財政制度特別委員会で、公明党の市議から「大阪都の設置には莫大なコストがかかる割に、府市の再編によって生み出させる余剰財源はほとんどない」旨の指摘がなされた。囲み会見でその点を記者から質問された橋下徹市長は、「(大阪都構想のメリットについて)いくらキャッシュが捻り出せたかという財政効果に矮小化するのではなく、現在の府市の二元行政が一元行政になった場合、過去におこなってきたような無駄な投資等がいかに削減できるかといった、あらたな『効果の概念』を有識者を交えて考えてもらいたい」と語り、有識者会議の設置を担当部局に指示したことを明らかにしたのである。
この発言の趣旨を大雑把に言ってしまうと、大阪府と大阪市が1つになって大阪都ができても、合併によって何十億円、何百億円もお金が余るといったコスト的なメリットはどうもなさそうだから、例えば極端な話、大阪都民になれば大阪市民よりも格好も良さそうだしステイタスが上がりますよといった、別の“効果”が生まれることを学者サンに示してもらうという話なのである。要は、定量的なメリットがほとんど見当たらないので、代わりに定性的なメリットを探そうということなのだ。これを行政マンにやらせても有り難みがないので、代わりに有識者にやらせる。まあ、言ってみれば、学者センセイは屁理屈を付けてでも「大阪都構想はこんなにも素晴らしい」と箔づけをする。そのための露払いである。
2011年12月末、大阪府と大阪市の再編の実務を担う「府市統合本部」の初会合が開かれた。この席で松井一郎知事は、府市の二重行政の解消で年間4000億円ほどの財源を生み出すとの方針を示している(下記議事概要の17P)。しかも松井知事は4000億円を捻り出すことについては「全然不可能な数字ではないと思う」と語り、その余った財源を使って、大阪の経済のために投資すると豪語していたのだ。
第1回 大阪府市統合本部会議について
(http://www.pref.osaka.jp/daitoshiseido/togohonbu/honbukaigi001.html)
議事概要
http:/www.pref.osaka.jp/attach/15336/00091006/01gaiyo.pdf
この当時、松井知事や橋下市長らは府市再編の効果を「財政効果に矮小化」するどころか、府市再編の金銭的メリットという大花火を打ち上げていた。今回の橋下市長の有識者会合の設置発言は、それとはまるで正反対。試算すればするほど、4000億円といった余剰財源はどこからも生まれてこない。だから財政効果など意味をはないとでも言っておかなければ格好がつかないのだ。しかしその真意は、じつは大阪都が完成しても浮いてくる財源は期待できないと、当初の景気のいい話を反古にするものだと受け止めるべきなのである。
ちなみに橋下市長の発言後、新聞やテレビは「大阪市を特別区に分割し、大阪府と併せて再編する『大阪都構想』で、府・市の二重行政解消などによる『都構想効果』を約900億円と、府・市が試算していることがわかった」(8月3日付け読売新聞)などといったニュースを一斉に報道した。報道の900億円という額は当初の4000億円に比べると大幅に少ないが、松井知事や橋下市長に揉み手で近づく府市の幹部あたりが、それでも都構想にはメリットがあるとマスコミに必死に訴えたのだろう。ただし、この900億円という数字もかなり水増ししている。大阪都構想とは無関係の交通局の民営化や人員削減など、大阪市が単独でも可能な行政改革の目標値を、これでもかと織り込んでいるからである。大阪府と大阪市が再編し、大阪都構想になっても市民サービスがカットされるだけで、コスト削減の効果はゼロであることには変わりはない。
(2013年8月6日)
大阪都構想(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース)
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/osaka_metropolis_plan/
大阪都構想+効果(Google 検索)
http://www.google.co.jp/search?q=大阪都構想 効果&num=100&newwindow=1