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大山鳴動してミミズ一匹?
〜 橋下市長の問責決議騒動の顛末

吉富 有治


大阪市役所で会見する橋下市長
大阪市役所で会見する橋下市長


 まさに「大山鳴動して鼠一匹」。しかし、実質的にはネズミどころか、ミミズ一匹すら這い出して来なかったのではないのか。大阪市議会で5月30日に起こった、橋下徹市長をめぐる問責決議騒動のことである。


 従軍慰安婦発言など一連の問題について大阪市議会の自民党や公明党、共産党などの4会派は、橋下市長に猛省を促す問責決議を本会議で提案し、数の上では大阪維新の会を上回ることから、当初は可決されるはずだった。ところが松井一郎府知事が突如、「問責決議は市長を辞めろということ」と囲み会見で語り、出直し市長選挙にまで触れたから、大阪市議会はてんやわんやの大騒動。その結果、公明党は問責決議の表題のみをソフトなものに改め、自民党や民主、共産の3会派は問責決議のまま議会に提案。公明党の足並みが乱れたことで、本来は通るはずだった問責決議は否決される事態になってしまったのだ。

 今回の構図を「橋下・松井VS野党会派」の戦いだと見れば、一応は橋下サイドに軍配が上がった格好である。なぜなら問責決議で一致していたものを各会派の動揺を誘い、可決から否決へと転じさせたからである。

 しかし、私の見方は違う。今回の騒動には勝者もいなければ敗者もいない。マスコミは踊らされ、市民は呆気にとられただけ。実態としては、橋下さんも松井さんも、あるいは自民や公明などの各会派の誰もが、じつは内心はホッとしているのだ。八方、まーるく収まったというのが、じつは市議会関係者の正直な声なのである。


 その理由は簡単だ。要は、誰も本気で出直し選挙などしたくないのである。自民党や民主党の野党会派が出直し選挙戦を迎え撃つつもりなら、問責決議ではなく最初から不信任決議か辞職勧告決議を出している。そもそも、問責決議の文面を見ても、「市長を辞任しなさい」とは一言も書かれていない。維新側も問責決議を取り下げてもらおうと、29日の夜には公明党の有力議員に頼み込んでいた。かれらも最初から、出直し選挙一本槍だったわけでは決してない。

 橋下さんが恐れていたのは、これ以上イメージを悪くしたくないという一点のみなのである。大阪市で戦後初の問責決議が可決したとなれば、さらに自身や維新のイメージがダウンする。ただでさえ政党支持率が下がっているのに、これ以上の汚点が増えると、来る都議選や参院選は惨敗する。だから、何がなんでも問責決議だけは可決させたくなかったのである。

 そもそも橋下さんや松井さんにしてみれば、もし出直し選挙で負けたら、すべてがアウト、全部が元の木阿弥なのだ。最大の目標としていた大阪都構想は頓挫し、お膝元の大阪維新の会の存在すら危うくなる。松井さんの「出直し選挙」の一言は強気から出たというよりは、伸るか反るかの賭けだった側面は否めない。

 一方、自民党や公明党などの野党会派にすれば、もし橋下さんが出直し選挙に勝てば、一連の発言騒動を含めて「大阪市民の理解を得られた」として禊が済んでしまうことになる。その後に待っているのは、橋下維新の更なる政治力のアップである。これだけは避けたいのが野党会派の本音だった。加えて、橋下さんと互角以上に戦えるだけの対立候補が見当たらないという事情もあった。


 今回の騒動で問責決議の可決ができなかったのは、公明党が日和ったからだと言われている。現象だけ見れば、確かにそう思われても仕方がないと思う。この点について公明党も支持者に説明する義務はある。もっとも、公明党にも読みがあった。これ以上、橋下・松井の政治的パフォーマンスに乗せられてたまるかという嫌悪感があったのである。

 事の本質は、橋下さんが国政政党と政令市の市長の二足の草鞋を履いていることが、すべての元凶なのだ。だから市長としての仕事も中途半端になり市政も停滞する。そのうえ、ここで出直し選挙なんかやったら大阪市の行政も政治もストップする。だから公明党とすれば、「橋下さん、ちゃんと足元を見て、大阪市長の政治に専念してくださいよ」と釘を刺したのである。

 では、問責決議案を出した自民党や共産党はどうか。かれらは拳を振り上げた手前、下ろすわけには行かなかった。とは言え、本気で選挙を望んでいたわけでもない。というわけで、問責決議を出した自民党や民主党、共産党は「筋」を通した。一方、公明党は「名を捨てて実を取る」戦法に出た。橋下さんは出直し選挙にならずホッとした。これが今回の騒動の本質であり、大騒動したわりにはミミズ一匹すら出なかったというわけなのである。

(2013年5月31日)

取材


大阪市政(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/osaka_city/
大阪市会(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪市会
橋下徹(@t_ishin)(Twilog)
 http://twilog.org/t_ishin/asc

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