イライラが募る橋下さん 週刊朝日に怒り再燃
〜 ウラの理由は朝日新聞への逆襲か
吉富 有治
大阪市役所で会見する橋下市長
4月26日付の毎日新聞夕刊(東京版)に「
特集ワイド:続報真相 橋下氏『イライラ』のわけ
」と題する記事が掲載された。8段のスペース使った大型の企画記事で、東京では大きな反響があったと聞く。その記事に私もコメントさせてもらった。
記事の内容はタイトルの通りで、橋下徹大阪市長が最近イライラしているように見える。その理由は何か、を探るものだった。私のような大阪政治のウォッチャーをはじめ、平松邦夫前市長や大学教授、また日本維新の会の関係者などにも取材し、その“真相”に迫ろうとした記事である。さて、コメントだけでは伝えきれなかった問題について、ここであらためて解説してみたい。
まず、橋下さんのイライラが爆発したのは、一度は片付いた週刊朝日問題を蒸し返したことだったと私は指摘した。4月2日発売の週刊朝日が掲載した「賞味期限切れで焦る橋下市長」とする記事に橋下さんはツイッター上で噛みついた。「こんな人をバカにしたような記事を載せやがって」と、あからさまに感情を爆発させ、さらに親会社の朝日新聞まで民事と刑事で訴えると鼻息を荒くした。
この一文を読んだとき、私は非常に違和感を覚えた。どう考えても、橋下さんの言い分は筋が通らないからである。再び怒りを買った記事が佐野眞一さんのルポ同様、差別的言辞と人権侵害に満ちた記事だったならば、これは言語道断。週刊朝日は何も反省していないことになる。ところが、当の記事は差別や人権侵害を意図するものでもなく、そのような表現も見当たらなかった。この記事すら許されないというのであれば、メディアは橋下礼賛記事しか書けないことになるのか。
確かに、この記事は橋下さんを揶揄するような印象を与えたかもしれない。だが、それは週刊誌というメディアの特性上、表現テクニックとしては十分ありえることだ。橋下さん自身、何度も週刊誌で茶化され、叩かれ、また罵倒されてきた経験がある。週刊誌の性格など百も承知のはずではないか。
そもそも橋下さんは、他者に対しては常々「決められたルールは守れ」と言う。そのために君が代起立条例や職員基本条例を制定したのではなかったのか。ならば当然、最初の週刊朝日問題で和解したときに自身で「ノーサイド」と言ったからには、それが法的根拠のない紳士協定であったとしても、ルールはルール。相手方がよほど不誠実な言動でも取らない限り約束は守らねばならない。しかし今回、それが守られなかったので私は違和感を抱いたのだ。ならば、橋下さんが怒るのには別の理由があったとしか思えないのだ。その理由こそ、じつは朝日新聞ではないのかと私は考えた。
朝日新聞は4月5日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表にインタビューし、日本は「軍事大国になるべきだ」という発言を引き出している。当然、大阪市の市政担当記者はこの発言の真意を橋下さんに質したが、きわめて苦しい弁明をした挙句、最後は「『朝日』特有の誘導策」「きわめて卑怯なやり方」と逆ギレれしたという。そして翌日の6日、なぜかツイッターで週刊朝日への口撃をスタートさせた。そのうえ朝日新聞まで訴訟ターゲットにしたのである。
では、なぜ朝日新聞まで攻撃対象にしたのかというと、これは石原さんをインタビューしたからではないのか。石原さんが「軍事大国」という言葉を使ったものだから、橋下さんも火消しに回らざるを得なかった。しかし、石原さんに怒るのではなく、取材した朝日に逆ギレしている。ところが朝日新聞が憎くても訴えるだけの落ち度はないから、週刊朝日をダシにした。こう考えると、様々な疑問も氷解する。それでも、ここまで理不尽な怒りをぶちまけるのは、おそらく橋下さんに焦りやイライラが募っていたからだろう。
旧・太陽の党との合流以来、マスコミからは「路線がブレた」と批判され、一部の府市特別顧問からも愛想を尽かされた橋下さん。衆院選の結果も目標からはほど遠く、おまけに今年に入ってから政党支持率は急降下。さらには足元の大阪市政をみれば、大きな公約だった水道事業の統合は大阪維新の会からも反対されて頓挫寸前。これでは橋下さんでなくても、誰でも精神的に参ってしまう。
普段の橋下さんなら、週刊朝日にも朝日新聞にもこんな八つ当たりじみた行動など起こしはしない。その証拠に、大阪ダブル選挙の最中、週刊文春と週刊新潮に出自問題を書かれたとき、茶目っ気たっぷりに逆手に取った演説で聴衆を沸かせていたではないか。今回の一件も心に余裕があれば、また維新に勢いがあれば、フンと鼻でせせら笑いつつ、おそらく「クソ朝日」と罵声を浴びせるだけで終わっていたことだろう。
さて、4月27日付の産経新聞が「
政界の反応 石破氏「『軍』は新鮮」、海江田氏「基本的な考え方と相いれない」
」という記事を載せている。
産経新聞の憲法試案を指して「あんな憲法がある国にボクは住みたくない」と語った橋下さん。ところが、この記事で平沼赳夫さんは、日本維新の会国会議員団代表として橋下さんと真逆のコメントを出している。橋下さんのイライラがこれ以上募らない保証はどこにもない。
(2013年5月8日)
週刊朝日による橋下徹特集記事問題(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/週刊朝日による橋下徹特集記事問題
橋下徹(@t_ishin)(Twilog)
http://twilog.org/t_ishin/asc
憲法改正 - オピニオン(MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/column/topics/column-17533-t1.htm