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再稼働直前の大飯原発
〜 デモの最前線を取材して残った違和感とは


吉富 有治


大飯原発の再稼働反対デモ
大飯原発の再稼働反対デモ


 大飯原発が再稼働した。「3・11」以降、北海道電力の泊原発が今年5月5日に停止してから国内の原発は稼働ゼロの状態が続いていたが、それも約2ヶ月で終了したことになる。政府と電力会社は今後、なし崩し的に停止中の原発を再稼働させていくことだろう。


 大飯原発の再稼働反対運動は各地で続いていた。東京では3月から首相官邸前でデモが始まり、当初は300人前後だった参加者も、6月29日には20万人を超える人がデモの輪に加わっている(主催者発表。警視庁調べでは約1万7000人)。大阪では関西電力の本社前で座り込みやハンガーストライキなどが連日のように行われ、福井県庁前でもデモ隊が集結、「再稼働反対」のシュプレヒコールが鳴り響いていた。

 一方、その大飯原発では6月30日から再稼働当日を迎える7月1日にかけ、発電所に向かう道路を車列や人垣で封鎖する実力行使のデモが丸2日間にわたって繰り広げられていた。その数、約200人。時間が経つにつれ、インターネットでデモを知ったという人たちが全国から続々と集まってきた。その様子を取材しようと私は7月1日、梅雨の豪雨に打たれる現地まで足を運んだ。

 入り口を封鎖するという過激な行動に出たデモ隊。ときに機動隊と睨み合い、一時は緊迫した空気も流れたが、結果的に大きな混乱が起きなかったのは幸いだった。参加者たちはレゲエ風のリズムとドラムの音に身体を揺らせながら「脱原発」を訴えるだけで、暴力的な行為は一切なし。ただ機動隊の中には、あわよくば公務執行妨害で逮捕してやれと、挑発的な行動に出る警察官もいたようだ。それでもデモ隊は警官のワナに引っかかることはなく、7月2日の未明、無事に解散。とは言え、最前線の原発にこれだけ大勢の人々が集まったことは、政府や電力会社にとってプレッシャーになったはずである。

 一応、平和裏に終了した大飯原発前のデモ行動である。しかし、それでも私には違和感があった。それはまず、小さな子どもを連れた参加者がずいぶんと目立ったことだ。中には、ヨチヨチ歩きの赤ん坊を連れた男性までいた。ネットでデモを知り、大阪府内から車で駆けつけたという30代の夫婦は、2歳くらいの女児を連れていた。「原発事故が起これば子供の未来はありません」と訴える夫。その横で幼い女の子は、傘をさした母親の胸にしがみつきながら遠い目で雨音を聞いていた。


 反原発の意思を示したいという気持ちはよくわかる。なんとかしたいという思いは純粋なものだろう。だが、その前にわが子の身体と健康まで考えは及ばないのだろうか。

 この日は豪雨で気温も低かった。それも突然に降った雨ではなく、天気予報は前日から既報済みである。しかも機動隊と一触即発の事態は十分予測できた。原発の危険性を訴える前に、なぜ自分の子どもの危機管理ができないのか。豪雨の中に小さな子どもが長時間いれば風邪や肺炎にかかる恐れがあることくらい、普通の感覚なら理解できるだろう。

 また、デモ隊の中に『経済より人の命のほうが大切』といったプラカードを掲げている人を見かけた。一義的には、確かにその通りだろう。深刻な原発事故が起これば経済どころの騒ぎではない。それどころか、次に福島第一原発と同レベルの大事故が起これば今度こそ日本は沈没だ。だが同時に、経済もまた大切ではないのか。

 経済は金儲けだけを指すのではない。人の生死に直結する行為でもある。経済活動が止まれば雇用はなくなり、収入の道、つまり日々の生きる糧まで途絶えてしまう。さらに国や自治体の税収は減り、最悪の場合、自治体破綻の恐れすらある。それ以外にも経済が停滞することによる混乱の事例など山ほどあるだろう。

 イデオロギー優先型の脱原発運動には正直、共感よりも嫌悪感が残る。「崇高な理念をもった行動なら、身近な犠牲には目をつぶる」といった思考が見え隠れするからだ。「目的のためには手段を選ばず」も、この考え方に近いかもしれない。「原発が即時ストップにすれば、あとは野となれ山となれ」といった考えほど無責任なものはない。原発停止による経済リスクやわが子の健康を放ったらかしにする運動などロクな結果を生まないのではないか。


 日本も原発依存から抜けきる時期に来ている。ただし、遠くにある崇高な理念や目的も大切だが、足元にある身近な問題も同じくらい大切だということを、私たちもデモ参加者も、ここは真剣に考えるべきだろう。

(2012年7月3日)


大飯原発の再稼働問題 (Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/ohi_nuclear_power_plant/
原子力撤廃(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/原子力撤廃
原子力政策の見直し(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/review_nuclear_power_policy/

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