原発密集度は日本一。
福井県高浜町、おおい町を歩いてみた
吉富 有治
音海地区から海を隔てて望む高浜原発
いまも周囲に高濃度の放射性物質をまき散らす福島第一原発。いつ自宅に戻れるのか住民の不安は消えないままだ。だが、不安があるのは関西も同じだろう。日本海に立ち並ぶ福井県の原発群。大阪など関西に多くの電力を供給するこの地域には11基の原発が密集し、別名「原発銀座」と呼ばれている。
統一地方選挙の後半戦、私は福井県高浜町とおおい町を取材した。反原発は選挙の争点になっているのか。福島の事故を見て町民は何を思うのか。原発に依存する2つの町を歩いてみた。
「高浜原発で働く人の安全を守るため、私は電力会社に遠慮なくモノを言います」
海の向こうに高浜原発が見える高浜町音海地区を歩いていると、革新政党の候補者の選挙カーからこんな声が聞こえてきた。だが、よく聞いてみると「脱原発」ではなく、あくまでも「高浜原発で働く人の安全を守る」ことが大事だと訴えている。 「脱原発が争点になるかですか? うーん、どうでしょうか。有権者の中には原発反対を訴える人もいますが、それは少数です。大半は現状維持でしょう。実際、高浜町が原発に頼っている以上、私も明確には脱原発までは言えません。安全性の確保を訴えるのが精一杯」と候補者は答えていた。
高浜町は人口が約1万人の小さな町。財政状況は良好である。農業と漁業、観光以外に目立った産業はないのに他の自治体に比べて財政が豊かなのは、原発特典ともいえる「電源立地地域対策交付金」という政府からの財政援助があるからだ。高浜町の対策交付金は平成21年度で約17億円。電力会社も雇用や寄付など、何かと町には恩恵を与えているから、誰も原発には強く文句は言えない。
農家と漁業の兼業を営むという60代の男性はこう語る。
「原発が怖くないといえばウソになります。福島の原発事故をテレビで見たばかりだから、万が一のことを思うとこの土地も恐ろしい。ただ、この辺りの海は過去一度も大きな地震に襲われたことはないので、福島のような事故が起こるとは思っていません。怖いのは人間のミス。その対策だけは講じてもらわんとイカン。町は恩恵を受けているから原発がなくなるのは困る。第一、関西の電力の半分は福井県の原発が発電したもの。原発がなくなれば大阪だって困るでしょうが」
共に80代だという専業農家のご夫婦にも話を聞いたが、内容はほぼ同じだった。
「原発がこの町に来てくれたおかげで道路は舗装されて広くなったし、公民館も立派になった。完成したときは村の者全員がバンザイしたもんですわ」
原発PR館「エル・パーク・おおい“おおいり館”」
高浜町の隣、おおい町も大飯原発を抱えている。この町も高浜町と同じように町の財政は超良好だ。人口8千人規模の町としては不釣り合いなリゾートホテルやマリーナ施設、大型の体育館や多目的運動場など、原発の恩恵で建ったハコモノが目を引くばかりに立ち並んでいる。
保守系政党の候補者は次のように語ってくれた。
「原発とは共存共栄を訴えています。より安全性を高めてもらうよう電力会社には強く訴えるつもりです。ですが原発に依存しすぎると、もし何かの理由で廃炉になれば、その時点から交付金は下りません。原発マネーに頼りっぱなしではなく、原発がなくなっても町が存続できる方法を模索する必要があると思っています。ただ正直言って、選挙ではそこまでは言えませんが」
アニメや模型を使って原子力発電の仕組みなどが学べる「エル・パーク・おおい“おおいり館”」にも寄ってみた。ここは原発の必要性と安全性をPRする施設。豪華なシアターでおおい町の歴史と文化を紹介するビデオが上映された後、同館の副館長が約10分間、神妙な顔で大飯原発の現状と今後の対策について説明を行った。ただし、客は私を含めて3人だけ。少ない来客にだけでなく、安全性や問題点など、原発の正確な状況は世間にどこまで伝わっているのだろうか。副館長の話を聞きながら、そんな不安が脳裏をよぎっていた。
本当は原発は怖い。けれど、正面から文句も言えない。本音と建て前が交差する原発の町。町の人たちは複雑な感情を抱きながら、今日もそこで暮らしている。
(2011年4月28日)
日本の原子力発電所(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/日本の原子力発電所
エル・パーク・おおい | おおいり館(関西電力)
http://www.kepco.co.jp/pr/ohi/prcenter.htm
原子力政策の見直し(Yahoo!ニュース)
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/review_nuclear_power_policy/