中学生向けの特別授業を体験
そこで出された質問は病める現代社会の縮図なのか
吉富 有治
先日、大阪府下の某中学校で1年生を対象に特別授業をする機会があった。「職業講話」と題するこの授業の発案者は現場の先生たち。社会で働くことの意味、仕事をする意識を生徒に伝えたかったという。
そのため、参加した講師の方々も多士済々。デザイナーやスタイリスト、パティシエに看護師、また消防士や警察官、あるいは自動車整備士や図書館司書など、計14業種のプロフェッショナルを招いての大授業となった。授業開始のベルが鳴ると、私を含めて講師の皆さんは各教室に分散し、1年生を相手に計2回、それぞれの授業を行った。
これまで私も企業や地方自治体、また大学などで講演や講義を行ったことはあるが、中学生相手は生まれて初めての経験である。振り返れば、落ちこぼれ生徒だった私の中学時代。卒業から約40年も経って、若い彼らの前で授業を行うのは何か感慨深いものがあった。
私は「フリーランスのジャーナリスト」という肩書きで授業に臨んだ。話す内容は、もちろんジャーナリストという仕事の紹介である。フリーランスと新聞記者、テレビ記者との違い、なぜジャーナリストという仕事を選んだのか、また、これまでどのような報道を行ってきたのかを講義させていただいた。
さて、授業もつつがなく終わり、残りの時間は質疑応答となった。実は、ここで少し驚かされることがあった。真っ先に投げかけられた質問は、なんと「年収はいくらですか?」。仕事の辛さや内容ではなく、収入が関心事なのかと首をひねったが、問いかけている生徒は大まじめ。だから、私も内心では冷や汗をかきながら正直に応えることにした。そして2度目の授業。ここで行われた最初の質問も果たして偶然なのか、1度目と同じものだったのだ。
これは私だけのことかと考えていたら、そうではなかった。他の講師の方々も、ほぼ全員が同じ質問攻めに遭っていたことが授業後の懇親会で判明したのだ。これにはT中学の先生たちだけではなく、招かれた全員がびっくり仰天。このときは「今どきの中学生はちゃっかりしているね」と苦笑いするしかなった。
後日、この話題を友人や知人に語ると、驚いたことに「それが普通だ」という答えが返ってきた。さまざまな講演会の場でも、こういった質問が徐々に増えているというのである。これは中学生に限ったことではなく、大人向けの講演会でも「先生の年収はいくらですか」と質問する人が目立ってきているというのである。ここまで来ると「ちゃっかりしている」と笑っている場合ではない。
その背景は、予想以上の早さで貧困が社会に蔓延しているとしか思えない。いくら政府や日銀が国内の景気は上向きだと説明しても、多くの国民はその恩恵を受けていないのだ。給料は増えるどころか、リストラや失業の不安すらある現代の社会。我が子にだけは辛い思いをさせたくないと考える大人が増えても不思議ではない。その結果、子どもたちが仕事を選ぶ基準は中身や充実感などではなく、年収の多寡になっているのだ。
子どもから夢や希望を奪う社会は決して健全とは言えない。今の日本が抱える根深い問題を、私も教わるきっかけになった今回の特別授業だった。
(2011年3月8日)
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