大阪都論争
ツイッターでマスコミ批判を繰り返す橋下徹知事
でも、足下の役人や学者が実現不能だと思っている事実は
ご存じない!?
吉富 有治
統一地方選挙の前哨戦ともいわれた愛知県知事選と名古屋市長選。2月6日の投開票の結果は大村秀章氏と河村たかし氏の圧勝で終わった。大村知事、河村市長の両首長は今後、公約に掲げた市民税減税や議員定数・報酬の半減、そして「中京都構想」の実現に向けて新たな一歩を踏み出そうとしている。
さて、"愛知の乱"の勝ち戦に、鼻息が荒くなっているのが橋下徹大阪府知事だ。何せ、橋下知事と地域政党「大阪維新の会」のメンバーらは、選挙応援のためにバスを2台チャーターし、大挙して大阪から名古屋入り。昨年2度の大阪市議補欠選挙に続き、ここでもまた「橋下が応援すれば必ず選挙に勝つ」というジンクスが証明されたと、知事の周辺はニンマリ顔だ。知事の鼻息が荒くなるのも無理はなく、「大阪都構想」の実現にもますます自信を深めている。
その大阪都構想について橋下知事は最近、ツイッターでマスコミ批判を繰り返している。いわく「大阪都構想の中身が分からない、住民のメリットが見えないというマスコミや有識者は自治体に関する基礎知識がなく不勉強」といったもの。名指しで批判された一部メディアは府庁舎に出向き、知事に謝罪したとも聞いている。
さて、私もメディアで生きている人間である。大阪都構想については、これまで当コラムや雑誌などで批判的にコメントさせていただいた。大阪の政治・地方行政の著書や小論もあるが、もとより私は学者や行政マンではない。「不勉強」という知事のご批判は、確かにその通りかもしれないと反省もしている。だが、「中身が分からない」と首を傾げているのはマスコミや有識者だけではなく、じつは大阪府や大阪市の役人たちも同じなのだ。
これまで私が取材した府や市の役人たちは、いずれも政策立案や地方分権の未来図を描いてきた、いわば首長のブレーン的な存在。その彼らがそろいも揃って、大阪都の実現には懐疑的なのだ。
「機が熟せば大阪都の詳細な設計図を府市の職員に書いてもらうと知事は言っているが、本当に描けるのか」という私の質問に、大阪市の担当者は「まず不可能」と答える。その理由を「たとえば大阪市の24区を8〜9の特別区に再編し、それぞれが中核市なみの予算と権限を持たせると知事は言われるが、その財源は一体どこにあるのか。他にも矛盾点はあるが、都構想の実現はハードルが高いというより、無いものねだりをしている印象だ」と答えている。同じ質問に大阪府の担当者も「都構想の詳細が分からないので、なんとも言えない」と、こちらは言葉を濁していた。
知事から解体の対象にされた府と市の役人たちである。そのため、かれらが保身のために「できない」と言っている可能性は十分ある。しかし、知事の肝いりで設立された大阪府自治制度研究会は今年1月末、最終答申で「大阪都は困難」と結論づけた。関西経済連合会も2月7日、レポート『分権型道州制時代を拓く基礎自治体の自立経営』を発表したが、大阪市など基礎自治体の権限強化は提言しても、大阪都の「都」の一字すら出てこない。自治制度研究会の構成メンバーは学者が中心、関経連のシンクタンクも学者や企業家で構成されている。では、かれらも「不勉強」と知事は文句を言われるのだろうか。ここまで疑問や批判があるのに、それでも大阪都という「建物」を無理やり設計すれば、まず支柱の構造計算を甘くせざるを得ない。そうなると見かけこそ立派だが、地震が来ればバタッと倒れてしまう張りぼて建造物が出来上がる。かつて世間を騒がせたマンション耐震偽装問題、この自治体版が起こってしまうだろう。
私は橋下知事の改革への意欲は大いに買っている。大阪を変革するパワーも実行能力もある人物だと思っている。それだけに焦ってほしくない。やかましい外野の忠告でも、素直に耳を傾けてほしいと願っているのだ。巨大な欠陥自治体に住んで迷惑するのは880万人の大阪府民だからである。
(2011年2月10日)
橋下徹 (t_ishin) on Twitter
http://twitter.com/t_ishin
大阪府/大阪府自治制度研究会
http://www.pref.osaka.jp/chikishuken/jichiseido/
大阪市市政 大阪府自治制度研究会「最終とりまとめ」についての大阪市長コメント
http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000110353.html
分権型道州制時代を拓く基礎自治体の自立経営(公表資料|関西経済連合会)
http://www.kankeiren.or.jp/material/