橋下知事の「ケンカ民主主義」は本当に民主的か
吉富 有治
統一地方選挙が近づいてきた。今年の投開票日は4月10日と24日。告示日はまだまだ先だが、各党の候補者は年明け早々から街頭演説を始めており、実質的には選挙モードに突入している。
地方選とはいえ、今回は民主党政権の是非が問われることになる。もっとも、内閣支持率を下げている現状では、民主党に逆風が吹き荒れる選挙になることは間違いない。私が取材した民主党の地方議員も、二言目には「これほど厳しい選挙はない」とタメ息を漏らしていた。かといって、自民党が受け皿になる気配はない。自民党大阪府連の幹部は「厳しい選挙戦になるのは民主党と同じだ」と、こちらも渋い表情を崩さない。
一方、既成政党の凋落を尻目に威勢のいいのが地域政党だ。圧倒的な人気を追い風にしながら、大阪では橋下徹知事が率いる「大阪維新の会」が、また名古屋では河村たかし市長が代表を務める「減税日本」がさらなる勢力拡大を目指している。とくに大阪維新の会は昨年4月に結党したばかりだというのに、大阪市議会では13名の議員を要し、大阪府議会では最大会派にまで急成長した。
橋下知事の最終目標は大阪都の実現だ。大阪府と大阪市を再編し、東京に次ぐ巨大都市を大阪に誕生させようとしている。その目的を達成するために、知事も「統一地方選では府議会、大阪と堺の両市議会で過半数を獲る」と鼻息が荒い。
自らの政策を実現させるためには、対話ではなく議会で過半数を獲る。これが橋下知事の政治手法である。これを「ケンカ民主主義」と呼ぶらしい。
橋下知事は新年の記者会見で「民主主義のルールの中で、自分の意志を尊重するためにあらゆる方法をとる。それが政治には一番重要だ」と述べていた。先ごろ、リコールで失職して市長選で敗北した鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長も同じ考え方の持ち主だ。もっとも、こちらは議会を無視して首長の専権を振りかざし、役所と市民を混乱させてしまったが、根本的には橋下知事らの思想と相通じるものがある。
このような政治手法に賛同する有権者は多い。その背景として、既成政党が不甲斐ないことが一点。また、地方分権が進むどころか、ますます地盤沈下していく我が街の姿に苛立つ住民が増えたことが挙げられる。そこに「大阪市役所をぶっ壊す」「大阪都になれば大阪は元気になる」と威勢のいい台詞を吐くカリスマ的な政治家が現れれば、「じゃあ、任せてみようか」と思う有権者がいても不思議ではない。
ただ、このような政治手法、私はどうも感心しない。むしろ危うささえ感じている。議会で過半数の賛成を得られれば政策が通るというのは、なるほど民主主義のルールだろう。だが、数こそ力なりと、なりふり構わず議席を伸ばす方法が本当の民主主義だと言えるだろうか。目的のためには手段を選ばずという強引な手法が、果たして民主的だと言えるのか。
たとえ政策に異を唱える者であっても、論理と誠意でもって相手を納得させる。その政策が正しいかどうかを積極的に情報公開し、ときには有権者の判断も仰ぐ。このような対話力こそ政治家に求められる資質ではなかったのか。それが本来の民主主義というものではないのか。
「自民党をぶっ壊す」というフレーズを掲げ、国民の圧倒的な支持を得て総理になった小泉純一郎元首相。その後、日本はどうなったのか。壊れたのは自民党ではなく、日本だったことをいまこそ思い出すべきだろう。
(2011年1月20日)
第17回統一地方選挙 (日本)(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/第17回統一地方選挙 (日本)
大阪都構想(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪維新の会
http://oneosaka.jp/