新春、メディアに思うあれこれ。
ついでにちょっと自著のPR
大谷 昭宏
雪の石庭/妙蓮寺
写真素材 - フォトライブラリー
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2013年、最初のコラムです。本年もどうぞよろしく。さて年明け、今年は曜日並びにめぐまれた上、大きな事件、事故もなく、久しぶりにのんびりさせてもらった。三が日は例年通り、京都・堀川の妙蓮寺に新聞記者の大先輩、松田仁宏さんのお墓参りをしたあと、一泊して10か所以上の寺のお庭をまわることができた。小雪が舞う古都、とにかく寒かったけど、やはり日本中で一番好きな土地という思いを深くした。
と言いつつ、いきなり俗世間に戻って、年末年始の新聞、テレビのつまらなかったこと。メディアのなかで仕事をさせてもらっているが、本当にこれでいいのか。このままでは、日本のメディアは、ますます読者、視聴者から見放されてしまう、という焦りにも似たものを感じたのだった。
民放の年末録りだめバカ騒ぎバラエティーは毎度のこととして、NHKがひどかった。昨年の大河ドラマ「平清盛」の目を覆うばかりの低視聴率がよほどこたえたのか、今年の大河、「八重の桜」と、主演の綾瀬はるかさんのPR番組の垂れ流し。その第1回のタイトルが「ならぬことはならぬ」と知って、こりゃまあ、新年早々、ブラックジョークかいな、と思いましたね。
そんななか、気を吐いたのが、朝日の4日付朝刊、「手抜き除染相次ぐ 福島第一周辺 土や葉、川に投棄 環境省が調査」のスクープだった。188億円、77億円という巨額な費用でゼネコンの共同企業体(JV)が請け負いながら、下請けの作業員は、剥ぎ取った土や落ち葉、それに洗浄後の汚染水はすべて回収する決まりを無視して、川に蹴り込んだり、側溝を通して川に垂れ流し。朝日は4人の記者が延べ130時間、11か所の作業現場を張り込んで、この事実を確認。ヘルメットにピンクのリボンをつけた現場責任者が川に落ち葉を蹴り込む様子を撮影した3枚の写真も添えている。署名に旧知の女性記者の名前があるから言うわけではないが、見事な調査報道である。
最近、とみに調査報道に力を入れている朝日の姿勢が花開いたと言っていい。かつては読売の十八番だった調査報道だが、主筆の意に沿ったことしか報道できない読売と歴然と差がついたことを見せつけた。
これだけのスクープとなると、他社も無視はできない。調査報道であっても、この日の夕刊から各紙、こぞって後追いするという異例の展開になっている。こいつはぁ春から、おもしれえ、といったところだ。
とは言え、こうしてひと様のあれこれを書いているだけでは、メディアの中に身を置くジャーナリストの資格はない。常々、そんなことを考えていたのだが、ここに来て、久しぶりに単行本を出す運びになった。2月に平凡社から『事件記者という生き方』が出版される。
この本は平凡社の編集者、金澤智之さんが、かれこれもう6年前、「事件記者ものの本を出しませんか」と言ってきてくれたのがきっかけだったが、日々のテレビ出演や連載ものの仕事に追われ、遅々として筆の進まない私に、月々締め切りのある平凡社の書籍PR誌「月刊百科」への連載を提案してくれてスタートした。その後、「月刊百科」は休刊になってしまったのだが、そのあとも金澤さんは辛抱強く、私の書き下ろし原稿を待ってくれて、やっと出版の運びとなった。迷惑のかけっぱなしの上に誕生した本といっていい。
「生き方」なんて大層なタイトルをつけてしまったが、要は大勢の方に、メディアやジャーナリズムに興味を持っていただきたい。叱咤激励、毀誉褒貶、なんでもいいから、とにかくメディアに目を向けてほしいという趣旨の本。気楽に読んでもらえたら、と思っている。その上で、元気のある若者たちが「マスコミの世界もおもしろそうだ。ひとつ門を叩いてみるか」と思ってくれたら、これはもう願ったり、叶ったりである。
本は四六版320ページ、本体価格+税1600円。2月下旬には、書店に並ぶ予定。
(2013年1月6日)
大河ドラマ(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大河ドラマ
放射性物質の除染(Yahoo!ニュース)
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/decontamination/
「調査報道とは何か」
日本ジャーナリスト会議の勉強会から : ニュースの現場で考えること
http://newsnews.exblog.jp/15014282/