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コメントは誰がために

大谷 昭宏

鯉のぼり

 「こんなときに消費税を上げるなんてもってのほかだ。日本は萎縮してしまう!」「被災地の人にまで増税するのか!」。そう叫んで、視聴者の耳にさわりのいいコメントをしているのは楽だ。テレビ局や私の事務所に抗議がくることもない。だが、テレビ局の世論調査で58%の人が「復興のために消費税の増税はやむなし」と回答、70%近い人が「子ども手当や高速道路の無料化は見直すべき」と答えていることに対して、「この国の市民は極めて堅実であり、常識的だと思う」とコメントすると、「あなたは富裕層の味方をするのか」「子どもを育てるのがどれほど大変か知っているのか」と、激しい口調の抗議電話やメールが届く。

 ならば、冒頭書いたように、その方たちのお気に召すコメントをしていたらいいではないかということになるかも知れないが、それでは私たちの仕事とは何なんだということになってしまう。何より、だれだって税金を上げられるのは嫌だ。それにみんながゆとりのある生活をしているわけではない。にもかかわらず、この際、被災地の1日も早い復興を願って、3%程度の増税なら我慢しましょうとしている方に申し訳が立たない。


 東日本大震災の復興財源として、消費税の増税が論議されている。一時は菅総理も復興再生債を発行、その償還のために現行5%の消費税を3%上げて8%とするべく議論したいとしていたのに、復興構想会議が「時期尚早」と結論を先送りしたこともあって、議論は尻切れトンボに終わってしまっている。

 菅さんはこの際、テレビなどで「復興のために痛みを分かちあってほしい」と、直接、国民に呼びかけ、消費税アップの理解を得るだけでいい。そのあとは後任の総理に道を譲ってもいいのではないか。私は、それをなし遂げるだけでも菅さんは後世に名を残す名宰相たるのではないかとさえ思っている。

 消費税引き上げに反論、異論があることは十分、承知している。だが、ひと言で言うなら、もう、いざというとき何の蓄えもないような国はやめようじゃないか、というのが私の思いなのである。国と地方が抱える債務は900兆円。年度ごとの予算も収入以上の借金、つまり赤字国債で賄っている。そんな国がひとたび今度のような災害に見舞われたら、ひとたまりもない。建て直すための蓄えは皆無。預金通帳もないし、財布の中は空っぽ。たとえて言うなら、一家の大黒柱や家族のだれかが病気で倒れても、入院費はおろか診療代もないという状態なのだ。

 こんな国の姿は私たちの代で終わらせようじゃないか。生身の人間が病や怪我で倒れるように、国家にだっていつ何どき、とんでもない災禍に見舞われるかわからない。そのときのために、常日ごろから備えをしておこう。そのためには、もう借金まみれの生活をやめて、国民一人一人の汗でこのたびの復興をなし遂げようではないか、というのが、私の増税やむなしの主張なのだ。

助け合い

 「子ども手当は約束通り満額の2万6000円を支給せよ」と言って来られたお母さん。なるほどお子さんのおられない家庭にくらべて、はるかに家計が苦しいことはわかります。だけど、つい1年ほど前まではこんな手当はなかった。所得に応じて児童手当を支給する制度だけだった。それでも、児童手当しかなくて子ども手当がなかったからといって子どもを育てられなかった、子育てを放棄してしまったという家庭があっただろうか。もっと言えば、その児童手当の制度が発足したのは、1971年、戦後26年もたってからだ。あの終戦直後の貧しい時代、子ども手当どころか児童手当もなかったなか、子どもを持つご家庭はどうしていたんだろうか。

 「高速道路くらい、自前のお金で乗ろうじゃないか」という私のコメントに「無料化は約束だろう。約束破りを支持するのか」と大層怒ってこられたお父さん。私はかねてから、高速道路の無料化を景気回復の引き金にするなら、まず、物流などの営業車からしたらどうかと主張してきた。もちろんマイカー通勤で高速料金を払っている人もいるだろう。その方たちが約束守ってほしいと願うのは当然だ。高い高速料金は家計にも響くだろう。でも、無料化や1000円になった高速を利用している方たちは、無料化や値下げがなくなったら、もう高速は利用できないというのだろうか。だったら、この制度以前の盆や正月の大渋滞はなんだったのか。

 子ども手当を満額支給すると、国庫からの年間の支出は5兆6000億円、高速を全面無料化すると6兆円のお金がいる。この二つで11兆円余り。東日本大震災の復興には、少なくとも20兆円から25兆円が必要とされている。その半分近いお金をこの施策のために年度ごとに支出して、なお消費税を上げなかったらどうなるのか。やはりこれらの制度は廃止して、その上でなお、足りない分は消費税をアップして被災地復興に取り組むべきではないのだろうか。

 もちろん消費税の増税に反対なさっている方を厳しく批判する気はない。子ども手当も高速無料化も、できるならやってくれた方がいい。私のささやかな事務所でも、スタッフが消費税納税のための資金を日頃からプールしておくことに苦労しているのは十分に承知している。税率アップとなれば、その苦労も一段と増す。だけどいまは、そのことを口にすべきではない。敢えて増税を主張し続けていきたい。


 なんとなれば、あの惨禍に胸を痛め、いまも肉親を探し求める人々の姿に一緒に涙を流す。避難所で肩を寄せ合う方々が1日も早くいつもの生活を戻られることを心から願っている。そうした中で決して楽な生活ではないが、消費税を上げることで、復興が少しでも早まってほしいと祈っている。そういう市民が、この国では半数を遥かに超えている。だが、その方々の声が私たちに届いてくることは少ない。でも私は、そんな控えめだけど心根のやさしい市民の心に寄り添っていたい。そういうコメンテーターでありたいと思っているだけなのである。

(2011年4月25日)


スタジオ・イメージ


被災地復興への取り組み(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/0311eq_reconstruction/
消費税引き上げ問題(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/consumption_tax/
コメンテーター(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/コメンテーター

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